相対論的重イオン衝突実験で生成される高温物質の初期状態を探る有用な観測量として、保存電荷の非ガウスゆらぎを活用する研究は近年実験・理論の双方から益々注目され、活性化している。この一年度には、本研究が提案したラピディティ幅依存性の実験測定結果がSTAR共同研究から発表されるなど、活発な動きがあった。本研究では本年度、このような世界的情勢を鑑み、非ガウスゆらぎを特徴づける高次キュムラントに関する研究を精力的に進めた。まず、我々が以前から提案していた、高次キュムラントの非平衡性を実験で観測されるラピディティ幅依存性を用いて理解する研究に関して、以前から行っていた拡散マスター方程式を用いた理論的解析を精密化し、様々な初期条件を考慮することにより、実験と直接的に比較のできる理論解析結果を出し、論文として出版した。冒頭でも触れたように、この研究に触発されてラピディティ幅依存性の実験結果が報告され始めており、論文出版後も実験と理論を比較する解析を続けている。これ以外にも、昨年までの拡散マスター方程式では取り込まれていなかった確率過程の非マルコフ性の考慮や、理論解析が対象とする時空ラピディティを、実験で観測する運動量ラピディティに換算する際に起こる問題などについて検討を行った。更に、高次ゆらぎの実験的測定において、検出効率が100%でないことが測定結果にもたらす影響を補正するための関係式を導出した。この結果については、該当分野の実験研究者と密接に議論を進めている。このように、最終年度にふさわしい研究成果を挙げることができた。
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