研究実績の概要 |
本研究の目的は、二体、三体チャンネル結合系のユニタリー性を厳密に満たし、多反応チャンネル間の動的過程を適切に取り扱うハドロン反応模型(動的チャンネル結合模型)に基づくK中間子入射反応の精密理論解析を通じ、未だよく分かっていないハイペロン(=ストレンジネス量子数をもつバリオン)の質量スペクトルや内部構造を多チャンネル反応理論の観点から解明することである。 計画1、2年目は、17,000個以上にのぼる反K中間子‐核子反応(K-p反応)のデータに対して包括的な部分波解析を実行することにより、散乱振幅や散乱長の精密決定を行った。解析で得られたK-p反応の散乱振幅を複素エネルギー平面へ解析接続することにより、散乱振幅の極として定義されるハイペロン共鳴(Y*)の質量、崩壊幅等の情報を抽出した。これまで未発見だった新しいY*の存在を予言するとともに、それらがどのような観測量に強い影響を与えるかを明らかにし、その存在の決定に最適な新しい反応実験を提案した。なお、本研究から得Y*共鳴の質量スペクトルに関する結果は、Particle Data Groupが編集するReview of Particle Physics(RPP)の次回更新時に掲載される予定である。これは、RPPで初めて公式に掲載されるY*共鳴極の情報となる。 計画3年目と最終年は、低励起のY*共鳴やストレンジネスS=-2のバリオン間相互作用を調べるため、反K中間子‐重陽子反応(K-d反応)の模型を開発した。素過程に対してK-p反応の部分波解析により得られた振幅を採用することで、信頼性と予言能力の高いK-d反応模型の開発に成功した。Λ(1405)の寄与がJ-PARCで測定されるK-d反応の断面積に顕著な影響を与えるを示すとともに、S=-2のバリオン間相互作用を調べるのに適したものとしてd(K-, K0)BB反応を提案した。
|