研究課題/領域番号 |
25800150
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
笠松 良崇 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70435593)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 内部転換 / 235mU / 229mTh / 真空紫外線 |
研究実績の概要 |
平成25年度に制作を依頼していたマルチチャンネルプレート(MCP)を利用した低エネルギー電子測定装置のチャンバーが納品されたので、電圧印加用のニッケルメッシュの溶接や、配線などを施し、チャンバーを完成させた。焼成後、実際にMCPを取り付け、購入したターボポンプを使用して真空テストを実施した。配管の形状などを見直しつつ、現在もより単時間での高真空を実現するための改良を続けている。また、装置開発と並行して、239Pu試料の作成を行った。イオン交換を利用した精製スキームを完成させ、電着試料と水酸化物沈殿試料を作成することができた。 上記の235mUから放出される低エネルギー電子測定の研究と平行して、平成26年度から229mThの壊変機構を解明するための実験も開始した。第一に、7.8 eVという真空紫外線を測定するための測定チャンバーを作成した。光電子増倍管を用いた光子測定では、通常、高電圧印加後に測定値が安定するまでに時間を要するため、短寿命核種の減衰を観測するためには高電圧を印加して安定した状態のまま測定試料を設置する必要がある。そのため、試料交換を電圧と真空を保ったままで行うことができるようにチャンバーを作成した。光子測定装置が完成したので、233Uから229mThを分離して、迅速に測定実験を行うために京都大学原子炉実験所に装置を移動させた。約200 mgの233Uを陰イオン交換カラムに吸着させ、229mThを迅速に分離すると、迅速に水酸化物サマリウム沈殿もしくはフッ化物サマリウム沈殿と共沈させ、非常に薄く均一な試料とした。乾燥後、試料を測定装置に設置し、光子測定実験を行った。様々に条件を変えて実験を続けていく予定であったが、途中で検出器が故障してしまったため、現在中断中である。 235mUおよび229mThの研究成果をアメリカで開催された国際会議で発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では、平成26年度に235mUの電子スペクトル測定を達成している予定であったが、実際にはまだそこまでは達成していない。電子測定装置の完成が遅れているが、これは予算が減額された都合上、印加電圧の分圧回路等自作しなければならない部分が増加したからである。 また、229mThの光子測定は計画にはなかったが、化学状態によって内部転換ではなく、ガンマ線(光子)が観測される可能性があり、非常に興味深い研究課題を思いつくことができた。そして、実際に化学状態を変更した光子測定実験を実施することができた点では計画を上回っていると考えている。成果としては、さらに実験データを増やす必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の早い時期に低エネルギー電子測定装置(MCP)が完成する予定である。完成後は、検出器のテストとエネルギーのキャリブレーションを目的としたテスト実験を最初に行う。このために加速器からプロトンビームを利用して、核反応により49Vなどの低エネルギーの電子を放出する核種を合成し、使用することを計画している。その後、実際に平成25年度に開発した反跳核捕集装置と平成26年度に作成した239Pu試料を使用して、様々な化学状態の235mU試料を作成し、その電子スペクトルおよび半減期の測定を実施する。化学状態依存性からその壊変機構の解明を目指す。 229mThの光子測定は、新しく購入した検出器が取得でき次第、再開し、どの程度の半減期の範囲内の真空紫外光が放出されているのか?それとも出ていないのか?を調べる予定である。また、最近報告された紫外光の放出を観測するため、これと同様の実験も確認として実施することを計画している。もし、同様の光子放出を本実験でも確認できれば、この光子放出が229mTh起源であるとする強い証拠となる。またさらに、そこから化学状態を変化させることで229mThの壊変の化学状態依存性を世界で初めて観測することに挑戦したいと考えている。 また、235mUの実験終了後には、計画通りに229mThの内部転換電子測定の実験を行うために、235mU実験で用いた低エネルギー電子測定装置の改良に着手し、229mTh試料からの内部転換電子を観測したいと考えている。
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