研究課題
若手研究(B)
1. 薄膜のp-タフェニル単結晶の作成: 低エネルギー実験のためには、標的の薄膜化が必要である。液化したp-タフェニルを2枚のガラスプレパラート間で固化させる方法により、薄膜結晶の製造に成功した。結晶を容易に剥離させる手法を確立するため、プレパラートに代えて、薄いフィルムを用いる手法を試験中である。2. 常温での高い陽子偏極生成: 標的の偏極原理においては、まず、レーザーパルスの照射によりペンタセン分子を励起させ、電子偏極を生成している。偏極度を最大化するため、パルスの時間幅・繰り返し率や試料温度が与える影響を評価し、従来の6倍の偏極生成効率を達成した(結果を投稿論文として発表)。また、電子励起状態の寿命及びスピン格子緩和時間が従来の報告値と比べて各々5倍・25倍程度長いことも明らかになった。結果を別の投稿論文として準備している。3. 標的の大面積化: 位置広がりの大きい不安定核ビームを照射するため、標的を直径14 mmから24 mmまで大型化した。この目的のため、従来は不可能であった非常に大型(29 mmφ)の単結晶の製作に成功した。さらに、大口径化に伴う偏極生成装置の開発を完了し、初の偏極信号を観測した。最大偏極度を得る条件を達成するため、マイクロ波共振器・回路の開発を進めている。4. 低エネルギー実験計画の検討及び提案: 偏極標的を用いた初の低エネルギーRIビーム実験として、炭素9-陽子共鳴散乱測定計画を立案し、理研RIBFの実験課題採択委員会に申請した。実験の目的は、非束縛核である窒素10の核分光を行うことである。偏極分解能の情報を用いて、窒素10の質量、一粒子状態のスピン・パリティを決定する。さらに荷電類似状態の性質を用いて、ボロミアン核であるリチウム11の構造について議論する。委員会では実験の物理的意義が高く評価され、ビームタイムの配分を受けた。
2: おおむね順調に進展している
まず薄膜標的の製造に関して、ガラスプレパラート間での単結晶生成を予定通りに完了した。この手法に基づき、さらにフィルム間での単結晶生成を行うことで、薄膜結晶の取り出しへ繋げることを予定している。常温での高い陽子偏極の生成に関しては、詳細な研究から偏極生成メカニズムに関して予想以上に多くの知見が得られ、これに基づき実際に最適な波長のレーザーを用いた高偏極度生成試験を実行中である。また、結晶の大型化に関しては、技術的困難を克服し、世界でも最大のナフタレン単結晶の製造に成功した。必要な装置の開発も概ね順調に進み、偏極生成まで完了している。未だ最適な偏極生成条件は達成されていないが、これは想定の範囲内であり、必要なマイクロ波回路の改良へ進んでいる。一方で、予定していた理化学研究所RIビームファクトリーにおける不安定核ビーム実験(陽子-ヘリウム6 弾性散乱の偏極分解能測定が、RIBFの全体的なビームタイム不足のために実行できないなど、従来の計画を達成できない部分もあった。そこで、第二年度に予定していた、偏極標的を用いた初の低エネルギーとしての炭素9-陽子共鳴散乱の計画立案・提案を前倒しで行うこととし、実験課題採択委員会にてビームタイムを獲得した。このように状況の変化に柔軟に対応することで、予定以上に達成できた部分もあった。以上の理由から、研究の目的の達成度について、概ね順調に進行していると考えている。
研究計画の変更を行う必要性はなく、従来の方針通り推進予定である。具体的には、25年度から継続して薄膜のp-タフェニル単結晶の作成(薄膜フィルムを用いた結晶生成試験)を行うとともに、標的温度制御系の開発を行う。また、新たに低エネルギー実験計画のセットアップ構築(標的真空槽・検出器及び新標的システムの組み込み、二次ビーム生成手法の検討など)を始める。加速器実験としては、大型化した標的システムを理研RIBFにおける不安定核ビーム実験に適用し、性能を実証する。また、平成25年度に行った、高温低磁場における陽子偏極の時間発展についての研究内容をまとめ、投稿論文とする。
研究試料製作のための小額物品の購入に備えていたが、代替の物品が急遽入手できたため、残額を次年度に繰り越すこととした。通常の助成金と同様に使用する。
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RIKEN Accelerator Progress Report
巻: 47
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B
巻: 317 ページ: 679-684
10.1016/j.nimb.2013.07.067