本研究では,ブラックホールの安定性・運動をブラックホールを記述する運動方程式(アインシュタイン方程式)の直接的な積分ではなく,流体・重力対応と呼ばれる双対性を用いて,変分学・流体力学における問題に置き換えてから解析する. 本研究の具体的な目的は,変分学における等周問題を解き,一般次元におけるKaluza-Kleinブラックホールの安定性を決定することで,このアプローチの有用性を示すと同時に,ブラックホール物理学における未解決問題(Gregory-Laflamme不安定性の最終状態の問題)に決着を付けることである. 研究期間においては協力研究者と共に,一次元が円周上にコンパクト化された一般次元ユークリッド空間における等周問題に取り組んだ.平成25年度においては,主に過去の文献の整理と問題の定式化・解析を行った.平成26年度には,数値的手法を援用し,任意次元において与えられた体積に対して表面積を最小化する超曲面(平均曲率一定面)を探すこと(安定性)に取り組み,主な解析を終了することができた.現在,得られた成果に基づく論文の執筆,および,Kaluza-Kleinブラックホールの安定性に関する物理的意義の抽出を継続中である. 得られた成果は,微分幾何学において十数年未解決のまま停滞していた状況に風穴をあける重要なものと言える.また,その成果が,ブラックホール物理学におけるアプローチで得られたことは,学際的な価値があるだけでなく,現在,一般相対論・素粒子物理学において盛んに研究されている流体・重力対応の観点からも非常に意義深い.
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