研究課題/領域番号 |
25800170
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
池田 陽一 独立行政法人理化学研究所, 仁科加速器研究センター, 特別研究員 (90548893)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハドロン物理 / ハドロン間相互作用 / 格子QCD |
研究概要 |
格子QCDシミュレーションを用いたチャーム・クォークを含む物理系への応用について計算を行った。チャーム・クォークの物理は、J-PARC、Belleなどの日本の加速器実験ならびにBES、GSIなど世界の加速器実験でも調べられるハドロン物理学の主要なテーマである。特に、クォーク模型で良く再現される通常のハドロンとは異なるエキゾチック・ハドロンが実験的に報告される事例が多々あり、こうしたエキゾチック・ハドロンの構造の計算や未知の粒子の予言は急務の理論的課題となっている。 本研究では、チャーム・クォークを含むクォーク四個が最低含まれるようなテトラクォークTccおよびTcsの格子QCDシミュレーションを用いた解析を行った。Tcc(Tcs)はチャーム・クォークを二個(一個)含み軽いud反クォークを最低二個含むようなエキゾチック・ハドロンの候補である。未だ実験研究により確認はされていないが、もし存在すれば、チャーム・クォークのスペクとロスコピーに非常にインパクトをもたらすものである。 本研究では、Tcc、Tcsの存在の可能性を、アイソスピン0と1(I=0,1)のDD、KDおよびDD*、KD*の数値散乱実験を格子QCDにより行い、ポテンシャルを導出することで探った。その結果、格子QCDシミュレーションにおいても、クォーク模型の予言と同じくして、I=0のチャンネルに強い引力のポテンシャルが得られ、一方I=1チャンネルでは斥力のポテンシャルが得られた。以上から、格子QCDシミュレーションの結果はudのダイクォークの相関により理解されると言える。I=0チャンネルは引力ポテンシャルのため、束縛状態が存在するかどうかを調べるのは興味深い。格子QCDにより計算されたポテンシャルを用いて散乱位相差の計算も同時に行なった。しかし、束縛状態のTccおよびTcsが存在していないことが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、格子QCD計算によりエキゾチックハドロン存在の可能性について議論を行なった。特に、最終目標である、物理的クォーク質量でのハドロン間相互作用を格子QCDシミュレーションにより導出するための計算コードの開発が予定通り進み、現実的クォーク質量ではないがハドロン間相互作用を計算し、束縛状態の可否についての議論を行えた。 開発された計算コードを用いることで、今年度の研究での標的のチャンネルTccおよびTcs以外への拡張も簡単となるため、今後より一層の成果を望むことができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は現実的クォーク質量で重要となってくるであろう、ハドロン間のチャンネル結合を取り入れた計算を行う。もっとも良い標的として、BESIIIやBelleで実験的に報告されたZc粒子である。このZc粒子の解析においては、パイ中間子とチャーモニウム、ならびにD中間子のチャンネル結合の計算が必要であるが、ハドロン有効模型ではそのチャンネル結合の強さがわからず、パイ中間子とチャーモニウムからなるチャンネルは無視されている。 格子QCDにおいては、これらのチャンネル結合の強さを第一原理的に決定することが可能であり、本研究を実行した後の有効模型へ与えるインパクトは非常に大きい。また同時に実験結果の解釈も本研究の枠組みで可能となるため、今年度はZc粒子の解析を中心に計算コード開発および格子QCDシミュレーションによるチャンネル結合ハドロン間相互作用の導出を行なう。
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次年度の研究費の使用計画 |
個人用PCの周辺機器(消耗品)にかかる値段が予定より安価だったため4,436円の差額が生じた。 研究成果の発表にかかる旅費と、個人用計算機とその周辺機器。
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