本研究は、「すざく」およびASTRO-H衛星によって、銀河団ガスの衝突・合体を通じた進化を研究するものである。これまでの実績としては、ASTRO-H衛星搭載硬X線検出器(HXI)の完成と、「すざく」のデータを用いた銀河団の系統的な研究がある。
HXIは、銀河団同士が衝突・合体したときに銀河団ガス中でおこる加熱や粒子加速を観測するために必須の検出器である。私は主に、HXIの電源管理部や高圧電源部の開発を担当してきた。これまでに、ヨーロッパから輸入されてきた高圧電源モジュールの不具合など、さまざまな課題を乗り越え、スケジュール通りに電源管理部や高圧電源部を完成させることができた。これらをHXIにくみ上げた後の動作試験や振動試験、熱真空試験などの環境試験に私は参加し、HXIが所期の性能を発揮しつつ宇宙での使用に耐えることを確認した。
「すざく」のデータ解析では、今年度までに下田優弥氏(埼玉大学博士課程卒業)と協力して、今までに観測された銀河団を網羅的に研究した。この成果は天文月報2015年4月号(EUREKA)に掲載されている。z=0.372までの22個の銀河団から、鉄属とアルファ元素の重元素組成比を個別に求めたところ、鉄の量は、衝突銀河団では宇宙年齢とともに増え、緩和している銀河団では、すでにある一定の量に達していることがわかった。鉄を銀河団ガスに供給するIa 型超新星爆発は、銀河団衝突によって励起されるようである。また、シリコン(およびアルファ元素)の量は、主に銀河団形成期に重力崩壊型超新星爆発の活動度が上がったことで増えることがわかった。このことから、「あすか」の時代から示唆されていたように、系が小さくなるとシリコンは重力ポテンシャルから逃げている可能性が高い。このように、銀河団衝突に伴う銀河団ガスの化学的進化について、重要な進展を見ることができた。
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