研究課題/領域番号 |
25800175
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松永 隆佑 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50615309)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | テラヘルツ分光 / ヒッグスモード / 超伝導 |
研究概要 |
自発的に対称性が破れた系では、オーダーパラメーターの振幅の揺らぎに相当する集団励起モード、いわゆるヒッグスモードが存在する。しかしその検出はこれまで特殊な系に限られており、特に純粋なs波BCS状態におけるヒッグスモードの観測は報告されていない。我々はs波BCS状態におけるヒッグスモードを観測し、さらにオーダーパラメーターを光によって自在に制御する技術へと発展させることを目指して研究を行った。 BCS状態に対して非断熱的に励起を行った場合、つまりオーダーパラメーターの逆数で特徴づけられる応答時間よりも速く瞬時的な摂動を与えた場合にヒッグスモードが誘起されることが理論的に予測されている。我々はこの手法に着目し、s波金属超伝導体Nb1-xTixNに対してTHzポンプ-THzプローブ分光測定を行った。超伝導ギャップエネルギーと同程度の周波数である高強度モノサイクルTHzパルスを用いることで、格子系を加熱することなく瞬時に非平衡BCS状態を実現することができる。さらにその超高速ダイナミクスをTHz帯光学伝導度を通してもう1つのプローブTHzパルスによって検出することが可能である。 ポンプパルス幅1.5psよりも長い応答時間を持つ試料を用いて非断熱的励起の条件を満たすことで、励起直後から約10psの間、透過プローブ電場に明瞭な減衰振動が現れることが分かった。この振動の周波数はポンプ強度の増加に対して著しく減少し、励起後の非平衡準安定状態におけるオーダーパラメーターの値と一致した。この振る舞いは理論的に予測されるヒッグスモードと極めてよく一致する。また2次元時間領域THz分光によって光学伝導度スペクトルの時間発展を調べることで、オーダーパラメーター振動をスペクトル領域でも確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高強度テラヘルツパルスを用いたテラヘルツポンプ-テラヘルツプローブ分光測定を駆使して、研究の目的として掲げた「オーダーパラメーターの振動の観測」について世界で初めて成功した。時間分解測定によってヒッグスモードの超高速ダイナミクスを観測し、さらに2次元時間領域分光によってスペクトル領域においてもその振る舞いを明らかにしたことで、このオーダーパラメーター振動の詳細な性質を調べる手法を確立することができた。またこの振動現象が自発的対称性の破れに伴って生じる集団励起モードの1つとして現在様々な系で大きく注目されているヒッグスモードに相当することから、非平衡BCS状態としての性質に留まらず、より普遍的な量子多体系の物理の新しい進展として精力的にアピールし、国内外から大きな注目を集めるに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の研究目的として掲げたもう1つの大きな目的である「光による量子相のコヒーレント制御」という点に着目して研究を進める。BCS状態におけるオーダーパラメーター振動、つまりヒッグスモードは、それ自体は分極を伴わないため、線形応答の範囲では電磁場と直接結合しない。これが従来の手法ではヒッグスモードが観測されなかった大きな理由である。我々はテラヘルツパルスを用いた非断熱的励起によってこの問題を乗り越え、オーダーパラメーター振動を誘起することに成功した。さらにこれをダブルパルス励起へと拡張することで振動を制御できるかという点は非常に興味深い。また、非線形応答領域においてこの集団励起モードと光がどのように相互作用するかは自明ではない。今後は高強度テラヘルツパルス技術を駆使して、テラヘルツ帯における光と物質の非線形な相互作用に着目し、ヒッグスモードをテラヘルツ電場によってコヒーレントに制御することを目指して研究を推進する。
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