研究実績の概要 |
本研究では、表面結晶構造の対称性の違いに着目し、高効率3次元スピン分解光電子分光装置(3D-SARPES)を利用して、未だ謎である「表面結晶構造の対称性」と「質量ゼロ電子の電子スピン構造」との関係を明らかにすることを目的とする。 その結果、以下の2つの結果、1)タングステン(110)単結晶の異方的電子スピン構造の決定,2)トポロジカル絶縁体Bi2Te2Seにおける超巨大Rashba効果および質量ゼロ電子におけるそれぞれの異方性と電子スピン構造の関係を明らかにした。これら2つの結果について以下に少し詳細に得られた結論を示す。 1)タングステン(110)単結晶は、表面結晶構造の2回対称性と強いスピン軌道相互作用に起因した異方的な電子スピン構造を持ち、そのスピンがほぼ一軸方向に沿っている事を実験的に明らかにした。これは、2回対称性の結晶表面をもつ物質系は、デバイスの応用上これまで問題になっていた短いスピン緩和長を大きく改善し、Rashba効果およびスピン偏極質量ゼロ電子を持つ物質を用いた新たなスピントロニクスデバイスの実現に適している事を示す。 2)トポロジカル絶縁体Bi2Te2Seの結晶構造はこれまで研究されてきた3回対称性を示し、そのトポロジカル表面状態は、異方的な電子スピン構造が生じている。この研究では、この質量ゼロ電子の電子スピン構造に加え、さらに高束縛エネルギー側に異方的な電子スピン構造を持つRashba型のスピン分裂バンドを観測した。しかし、それらの異方的な面内電子構造は形状は似ている物の試料面直方向に90度回転したような形状を示す事を発見した。これは、いわゆる3回対称性特有のワーピングと呼ばれる現象が生じており、このワーピングハミルトニアンでこれらの事象がすべて説明できる事、さらにスピン構造も異方性が現れると同時に面直スピンも生じる事が明らかとなった。
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