研究課題/領域番号 |
25800183
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
延兼 啓純 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60550663)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | カイラル超伝導 / トポロジカル量子現象 / トポロジカル不変量 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、カイラル超伝導におけるトポロジカル不変量を探索することである。昨年度の研究によりカイラルp波超伝導体が有力視されているSr2RuO4単結晶薄膜に電子ビームリソグラフィーにより電極を取り付け、電子輸送測定を行った。その結果、超伝導転移温度以下のゼロ磁場において量子ホール抵抗の観測に成功した。この量子ホール抵抗が現れる起源は、(2+1)次元の場の量子論や超流動ヘリウム3薄膜の理論研究において予言されているトポロジカルなチャーン・サイモン項の誘起により量子ホール効果が起きたと考えられる。本年度はこのカイラル超伝導体Sr2RuO4におけるゼロ磁場量子ホール効果が本質的な現象であることを確かめるために、膜厚の異なる試料を複数個準備し、測定を行った。2次元伝導面が10-30層の試料では基底状態で量子ホール抵抗(h/4e2~h/2e2)を示した。一方、伝導面が100層以上の肉厚試料ではホール抵抗値は数kΩより十分小さかった。また、膜厚が数百ナノメートルの試料のTcは、これまでに報告されているバルクSr2RuO4と同じ1.5Kであったのに対して、薄膜試料では約3K付近で超伝導転移が起きていることを明らかにした。このTcの違いはSr2RuO4単結晶薄膜試料を対象とした研究がカイラルp波超伝導のペアリング機構の解明に重要であることを示唆している。我々はTc=3K以下において異常な電圧を観測した。この自発電圧は試料の厚さと関係があり、薄くすると自発電圧が増加することを明らかにした。伝導面に垂直に磁場を印加したところ±1Tから±5.8Tの範囲内で自発電圧のスイッチング現象を観測した。もし電場Eと磁場Bのカップリングがあれば、自発電圧の起源を説明できるかもしれない。我々はこれらの実験結果が、(3+1)次元のチャーン・ポントリャーギン(トポロジカルθ)項に由来する2次元表面量子ホール効果と層間方向を考慮した3次元的な電気分極効果であることを提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、複数のSr2RuO4単結晶薄膜における電子輸送測定を行い、チェーン不変量によって特徴付けられたトポロジカルな電気磁気効果を観測した。本研究成果は2014年8月11-23日にフランス・カルジェーズで行われた”International School and Workshop on Electronic Crystals ECRYS-2014”にて口頭発表を行った。国内では日本物理学会第70回年次大会(早稲田大)で口頭発表を行った。超伝導・超流動の理論研究者として知られているAalto大学O. V. Lounasmaa研究所のProf. G. Volovikとカイラル超伝導のトポロジカル不変量に関する研究議論をフィンランドと日本で行った。本年度も継続して議論を重ねていく予定である。現在、研究成果をジャーナル誌に投稿し査読中である。以上より本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
カイラル超伝導体Sr2RuO4におけるトポロジカル不変量(量子ホール係数)の磁場・ゲート電圧依存性や膜厚依存性を詳細に調べる。本年度できなかった単層や2層Sr2RuO4を作製し、電子輸送測定を行う。最終年度であるので、海外で開催される国際学会等で成果を発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に海外出張を予定していたが、研究の進捗状況から次年度に変更したため。
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次年度使用額の使用計画 |
海外で開催される国際学会の旅費として使用する。
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