本研究の成果は、カイラル超伝導体におけるチャーン(トポロジカル)不変量よって特徴付けられた量子アノマリー現象の観測に成功したことである。カイラルp波超伝導体が有力視されているSr2RuO4ナノスケール単結晶薄膜に電子ビームリソグラフィーにより電極を取り付け、電子輸送測定を行った。その結果以下の(1)~(3)を明らかにした。(1)超伝導転移温度以下のゼロ磁場において量子ホール抵抗(Rxy=h/4e2~h/2e2)を観測した。我々はこの量子ホール抵抗が現れる起源として、(2+1)次元の場の量子論や超流動ヘリウム3薄膜の理論研究において予言されているトポロジカルなチャーン・サイモン項の誘起により量子ホール効果(パリティアノマリー)が起きていることを考察した。また、Rxxは2次元超伝導-絶縁体転移の量子臨界面抵抗(h/4e2)に近い値となった。(2)薄膜試料では約3K付近から超伝導転移が起きていることを明らかにした。これはバルク試料で報告されているTc=1.5Kの2倍である。(3)Tc=3K以下において興味深い自発電圧を観測した。この電圧の発生は試料の膜厚と関係があり、薄くすると自発電圧が増加することがわかった。複数試料において伝導面に垂直に磁場を印加したところ自発電圧のスイッチング現象を観測した。電場Eと磁場Bのカップリング(E・B)を考えることにより、自発電圧の起源を説明した。我々はこれらの実験結果が、(3+1)次元のチャーン・ポントリャーギン(トポロジカルθ)項に由来する2次元表面量子ホール効果と層間方向を考慮した3次元的な電気分極効果であることを提案した。
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