研究課題
本課題の目的は、カゴメ格子反強磁性体を中心とする幾何学的フラストレート磁性体の新物質開拓を行うことにより、特異な量子基底状態の実現を目指すことにある。H27年度において、(a) S = 3/2ブリージングパイロクロア格子反強磁性体LiInCr4O8の構造・磁気転移を中性子散乱実験により調べた。(b) 歪んだS = 1/2カゴメ格子をもつボルボーサイトにおいて広大な1/3磁化プラトーを発見した。(c) カゴメ三角格子をもつ新超伝導体ScIrPを発見した。LiInCr4O8は、スピン3/2をもつCr3+イオンが大小の正四面体の交互配列からなるブリージングパイロクロア格子を組んだ反強磁性体であり、低温で構造・磁気転移を起こす。中性子散乱実験により、温度を下げるとこれらの転移が構造転移・磁気秩序の順に逐次的に起こることを見出した。磁気秩序相では、一つの正四面体について2 up 2 downのスピン配列をもつ複雑な磁気構造が実現していることが示唆された。ボルボーサイトCu3V2O7(OH)2 2H2Oは歪んだスピン1/2カゴメ格子をもつ磁性体である。単結晶試料を用いたパルス強磁場磁化測定により、本物質が30 T以上の磁場領域で40 T以上の磁場範囲にわたって広大な1/3磁化プラトーを形成することを明らかにした。ScIrPはScがカゴメ三角格子を組む物質であり、空間反転対称性をもたない六方晶の結晶構造をとる。多結晶試料を用いた各種の物性測定により、Tc = 3.4 Kの新超伝導体であることを見出した。比熱測定により従来型のs波BCS超伝導であることが示されたが、パウリリミットを越えないものの比較的高い上部臨界磁場をもつ。空間反転対称性をもたない結晶構造で働くIr 5d電子の強いスピン軌道相互作用が重要な役割を演じている可能性がある。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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