Ca2CoSi2O7では、結晶格子の整合-不整合相転移が250K付近に見られ、低温では通常のオケルマナイト構造の3倍の超格子構造を持つことが知られている。この相の結晶の対称性は、過去の構造解析の研究から2種類(正方晶P-4と斜方晶P21212)のものが報告されている。本研究では、この2種類の構造に対し、それぞれの2次の電気磁気効果テンソルを考え、2次の電気磁気効果の発現する磁場と電気分極の配置を予想し、測定結果と比較して低温での結晶の対称性の決定を試みた。実験は、まずパルス強磁場中で試料を回転することのできるΦ10mmの回転プローブを非金属材料で作成した。非金属材料を用いることでパルス強磁場発生時の誘導電流による発熱の影響を排除できる。これを用い200Kにおいてab面内で様々な方向の磁場印加を行い、c軸方向の電気分極の振る舞いを観察した。その結果、低温の対称性としては斜方晶のP21212の方が妥当であるということがわかった。さらに、磁気転移温度5.7K以下の1.4Kでの強磁場磁化過程の観察から磁場をa軸方向に印加した場合とb軸方向に印加した場合とで異なっていることがわかった。このことからも正方晶のP-4ではなく斜方晶のP21212を考えたほうが自然である。さらに、構造相転移温度前後で磁場誘起電気分極を精密に測定することで、構造変化に伴う電気磁気効果係数β(P=βH_[110]^2)の変化も観測することができた。また、この研究に際し開発したパルス磁場下での試料回転が可能なプローブは、BiFeO3におけるマルチフェロイック特性の研究にも利用され新しい電気分極成分の発見やその機構解明に役立った。 また、パルス強磁場を用いた75Tまでの磁化測定から、磁場をc軸方向に印加した場合に18~50Tの広い範囲で磁化プラトーが観測された。プラトー内での磁化の大きさは、飽和磁化の85%程度になっており、その磁気状態を想像することは困難であるため、今後の研究により明らかにしていく。
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