研究実績の概要 |
価数揺動系α-, β-YbAlB4における重い電子形成の機構と、新奇な量子臨界性の起源を明らかにするため、これらの系が示す極めて大きな異方性に着目した。α-YbAlB4がc軸方向の磁場中、約3 Tで示す異方的な非フェルミ液体状態の詳細を調べる為、極低温度での比熱測定を行った。その結果、比熱には顕著な非フェルミ液体性が現れないこと、しかしながらc軸方向に磁場をかけたときのみ、約3 T以上で重い電子が抑制されること、さらに緩和法比熱測定における内部緩和の時定数から、主にAl, B核の核スピン-格子緩和時間T1が、c軸方向に磁場をかけた時のみ、約3 T以上の磁場で大きく減少することを明らかにした。 非磁性結晶場基底状態を持つ籠状物質PrTr2Al20(TrはTiおよびV)はPr原子の持つf電子と伝導電子の間の混成が強く、四極子近藤効果や軌道秩序の量子臨界点を研究する上で最適の系である。特に最終年度において我々は、これらの物質が多極子秩序相内で示す超伝導(転移温度はTi, Vに対して各々、200 mK, 50 mK)についてより詳細に実験を行い、これらがバルクの重い電子超伝導であることを明らかにした。特に、PrV2Al20の場合、上部臨界磁場曲線から見積もった準粒子有効質量がm*/m0 ~ 140まで増大し、電子比熱係数も0.9 J/K2mol、さらに超伝導転移に伴う比熱の飛びも0.3 J/K2molと非常に大きいことが分かった。この結果は、電子軌道の量子揺らぎを起源とした新しい重い電子超伝導が実現していることを示す。さらに、より純良な単結晶試料を用いた比熱測定により、PrV2Al20の多極子秩序が、0.75 Kと0.65 Kの2段転移になっていること、多極子転移温度より低温で比熱が温度の4乗に比例し、軌道揺らぎを反映した何らかのギャップレスモードが存在すること等を明らかにした。
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