本研究課題では、グラフェンへのバンドギャップ誘起とそのメカニズムの解明を目標とし、そのために2つの手法に注目して研究を進めた。ひとつは原子あるいは分子をグラフェン上に(√3X√3)R30°構造で吸着させることで期待されるカイラル対称性の破れと、それによるバンドギャップ誘起であり、もうひとつは細孔を周期的に開けることにより対称性を破る方法である。 前者に対しては、グラファイトをSiO2基板上に劈開して得られるグラフェンの電気伝導度測定を通して研究を進めた。昨年度までに、原子・分子吸着によるバンドギャップ誘起は観測されず、SiO2基板の凹凸や不純物の影響が無視できないことが考えられた。そこで今年度はSiO2基板を部分的に削ることで浮遊グラフェンを作成し、電荷ドープや不純物散乱の効果を抑えた清浄度の高いグラフェンを用意した。しかし、Kr原子吸着によるバンドギャップ誘起の効果を電気伝導特性の変化として測定することはできなかった。以上の結果から、原子・分子吸着によるバンドギャップ誘起の効果は極めて弱いか、少なくとも、電気伝導特性という巨視的な物理量では容易に観測できないことが分かった。 一方、後者に対しては、グラファイト表面にジグザグ端で囲まれた六角形ナノピットを作成して得られるジグザグ端やジグザグ・ナノリボンにおける電子状態をSTM/Sにより直接観測した。その結果、ナノリボンでは確かにフェルミエネルギー周りで電子状態密度が抑制される様子が観測された。ただし、これがバンドギャップ誘起によるものかどうかは、引き続き精査していく必要がある。本研究では同時に、端に局在するジグザグ状態とランダウ準位の関係に注目し、ジグザグ端状態と最低指数のランダウ準位(LL0)が端近傍で共存することを示すと共に、LL0が高次のランダウ準位とはジグザグ端近傍で異なる振る舞いを示した。
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