研究課題/領域番号 |
25800192
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻 直人 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90647752)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導 / 動的平均場理論 / 非平衡 / 光誘起相転移 |
研究実績の概要 |
本年度は、光誘起超伝導転移の理論的理解に向けて、(1)電子とフォノンが互いに相互作用している電子格子系における非平衡緩和過程の解析、(2)d波超伝導体におけるヒッグスモード共鳴の平均場理論、の主に二つのテーマに取り組んだ。 (1) 電子格子系が外部から励起された後、どのように熱平衡へ緩和していくかは超伝導体の非平衡現象を理解する上で重要である。我々は、電子格子結合系の代表的なモデルであるホルシュタイン模型において、相互作用パラメーターを突然変化(クエンチ)させたときのダイナミクスを、非平衡動的平均場理論を用いて解析した。非平衡不純物ソルバーとしては、自己無撞着ミグダル近似を用いた。その結果、電子格子相互作用が弱いときはフォノンのコヒーレント振動が素速く減衰し長時間の緩和過程は電子自由度によって支配され、電子格子相互作用が相対的に強くなるとフォノン振動が長寿命になりフォノンが振動している各瞬間ごとに電子自由度の速い緩和が起こる。このような熱化過程のクロスオーバーは電子間相互作用と電子格子相互作用が並存するときに期待されるが、今回の研究により電子格子相互作用のみが存在する場合でも起こることがわかった。 (2) 前年度からの研究で、s波超伝導体にレーザー光を照射したときに、超伝導体の集団励起モードであるヒッグスモードを共鳴的に励起できることが実験的にも理論的にも明らかになっている。そこで高温超伝導体であるd波超伝導体でもヒッグスモード共鳴が起こるかが興味をもたれる。我々は平均場理論を用いてヒッグスモード共鳴の感受率を計算した。その結果、アンチノード方向のd波超伝導ギャップエネルギー付近にヒッグスモードの共鳴ピークが現れることがわかった。s波のときとことなり感受率は発散せず、ギャップレス超伝導であることを反映してピークエネルギーほどの大きな共鳴幅がつくことも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定していた、電子格子系のモデルであるホルシュタイン模型の非平衡ダイナミクスの解析を無事行うことができた。その解析には前年度開発した非平衡動的平均場理論の拡張が使われており、この点も当初計画していた通りに進んでいる。また、当初予期していなかった、ヒッグスモード共鳴という新しい現象が理論的に明らかにされ、またほぼ同時に実験的に観測されたことは予想をいい意味で裏切る進展である。ヒッグスモード共鳴はまさに本研究課題のテーマである超伝導体をコヒーレントに制御する例になっており、光誘起超伝導に向けて理解が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、ホルシュタイン模型の秩序相である、超伝導相(および電荷秩序相・反強磁性相)の非平衡ダイナミクスを解析する。特に、BCS理論や引力ハバード模型との違いは何か、ヒッグスモードを如何にして制御できるかを明らかにする。現実の超伝導物質は電子格子系であるので、この点は重要である。また、銅酸化物高温超伝導体を念頭に、d波超伝導のヒッグスモード共鳴を平均場理論を超えて強相関効果を取り入れて計算する。さらに、単一軌道(バンド)の超伝導体だけでなく、MgB2などの複数軌道の超伝導体へ拡張して、ヒッグスモード共鳴の解析を行う。ヒッグスモードを制御することで光によって超伝導を誘起する機構について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は海外出張に複数回行く予定であったが、東京大学の実験グループとの共同研究が思いのほか進展し、そちらを優先したため海外出張を控えた。そのため、出張旅費が減り、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度予定していた海外出張を次年度積極的に行うようにする。それによって研究成果を広く世界に発信する。
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