研究課題/領域番号 |
25800195
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
松岡 岳洋 岐阜大学, 工学部, 助教 (10403122)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 金属水素化物 / 金属絶縁体転移 / 高圧力 / X線回折測定 / Raman散乱測定 / 電気抵抗測定 |
研究概要 |
本研究は高い密度で水素を含有する金属水素化物を合成し、それに超高圧力を加えることで、金属イオンによって超高密度の水素が電子ドーピングされて金属化した状態、すなわち金属水素状態を創出することを目的とする.これによって、単体H2では未だ実現に至らない金属水素の魅力的な物性を明らかにする. 2013年度においては,リチウム水素化物(LiHx)及びベリリウム水素化物(BeHx)を研究対象とし,其々について高温高圧環境を利用した合成を試み,X線回折測定とRaman散乱測定による合成物の物性評価を行った. LiHxについては,金属Liと流体H2を混合してダイヤモンドアンビルセル(DAC)内に封入し,これに5 GPa(1 GPa = 1万気圧)以上の圧力を加えた状態で赤外レーザーを用いて1800 Kに加熱した.X線回折測定の結果,従来知られていたLiH(NaCl構造)とは異なる立方晶の結晶構造を持ち,なおかつLiの原子容がLiHのそれよりも大きい(40 GPaにおいて25%)LiHxの出現を観測した.さらにRaman散乱測定において,H2分子の伸縮振動モードよりも高い振動数にRaman散乱ピークが出現することから,LiHの中にH2分子が入り込んだLiHx(x>2)が合成できたと考えられる.目的とする水素リッチな金属水素化物の圧縮による金属状態の実現に向けて,重要な進展が得られた. BeHxも同様に高温高圧合成を試み,従来知られているアモルファスと結晶のBeH2のどちらとも異なる振動数にRaman散乱ピークを示す生成物の出現を観測した.これまで,Be金属は1気圧の水素雰囲気下では赤熱するまで加熱しても水素化物を合成しないことが知られており,本年度得られた結果から,本研究を進める上で重要な鍵となる高密度水素含有金属水素化物の合成に,高温高圧の利用が有用な手法であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題における今年度の当初目標は,①高水素圧力環境下において,温度圧力を変化させながら高密度水素化物(リチウム水素化物(LiHx)及びベリリウム水素化物(BeHx))を合成すること,②結晶構造及び化学組成の同定(試料中の水素量と結晶構造の同定)であった. LiHxについては5 GPa以上の高圧力そして1800 Kの高温環境下において,(a)従来知られているLiHとは異なる立方晶の結晶構造をもつリチウム水素化物が生成し,(b)Liの原子容がLiHよりも増加していること,(c)H2単体の伸縮振動モードよりも高い振動数にRaman散乱ピークが出現することから,LiとHの組む結晶格子内にH2分子が内包されているLiHx(x>2)が生成されたことを強く示唆するデータが得られた.また(d)合成されたLiHxは90 GPaまで透明な絶縁体であることが明らかとなった.これらの結果から,目標の①②について,概ね順調に進展していると考える.②であげた試料中の水素量の同定は理論計算と合わせて解析中である. BeHxについても,Be金属と流体H2の混合物を高温高圧環境下に置くことで,従来知られていたアモルファスや結晶BeH2とは異なる結晶構造を持つ生成物が得られることを確認した.結晶構造の詳細は現在解析中であるが,1気圧の水素雰囲気下では高温条件下でも合成されないベリリウムの水素化物が,高圧の印加を条件に加える事で生成され,かつそれが従来常圧下では得られない結晶構造を持つ可能性を示唆する結果が得られた.目標の①で掲げた高温高圧の利用が新奇BeHxの合成に有効であることを示すことが出来た.②については,得られたデータを現在解析中である. 以上から,当初の研究目的に対して概ね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
2014年度については,2013年度に得られた実験結果と本研究課題の当初計画に基づき,以下の4項目を遂行する. ①LiHxの金属化の検出.LiHxについて,2013年度に得られたLiHxを100 GPa以上の超高圧環境で圧縮し,電気抵抗測定によって金属化を探索する. ②LiHxとBeHxの結晶構造と試料内の水素原子位置の解明.リチウム及びベリリウム重水素化物(LiDx,BeDx)についてX線回折測定とRaman散乱測定を行う.同位体効果の観測によって,LiHxとBeHx中における水素原子の存在状態(位置,周囲との結合状態)を明らかにする. ③LiHxとBeHxの圧縮下の物性変化の解明.可視・紫外・赤外吸収測定を用いて圧縮状態におけるキャリア密度やエネルギーギャップの変化を観測することで,圧縮によって誘起される電子状態変化を解明する. ④カルシウム水素化物(CaHx)の合成と圧縮実験.新たに対象物質をCaHxに拡げ,LiHxとBeHxと同じ手法を用いて,高密度水素化物CaHxの高温高圧合成を試みる.合成されたCaHxについて,上記①~③の実験を行い金属化の検出と高密度状態での物性解明を行う. 2013年度はLiHxとBeHxの合成を遂行し,水素リッチな金属水素化物を得られたことを強く示唆するデータが得られた.今後の課題の一つは具体的な水素量や結晶内の水素原子位置と,水素原子と周囲の原子との結合状態の特定である.このため当初の計画に加えて②の「重水素化物による同位体効果の観測」を行い,これらの解明を目指す.また,ドープする金属種にカルシウムを加える事で,理想的な試料を探索する範囲を拡大し,水素の金属状態創出に向けて研究を加速させる.
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