研究課題/領域番号 |
25800196
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村川 寛 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40611744)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 新型分子性ヨウ化物 / ガス敏感な電気伝導 / 非対称軸性フタロシアニン / 誘電体 |
研究実績の概要 |
分子性物質における強い電気磁気効果の実現を目指し、非対称な軸配位構造を持つ遷移金属フタロシアニン結晶の合成に取り組んだ。主に真空中での固相反応により、ヨウ素を含んだ複数種類の磁性分子結晶の合成に成功し、そのうち二つは新物質であった。新型フタロシアニンヨウ化物(Fe(Pc)I)2I6では、240K付近に冷却速度に依存した誘電率の増大を観測したが、9Tまでの磁場に対して明確な誘電特性の応答は検出できていない。その他の試料においても、誘電特性の明確な磁場依存性はこれまでのところ見られていない。 一方で、合成の過程でクロムを含む新しい構造を持つ分子性物質を得ることができた。単結晶X線構造解析により、クロムヨウ素の平面ネットワークにフタロニトリルが垂直に配位した新物質Cr2I6(Pn)4において絶妙な層状積層構造が実現していることを明らかにした。この物質は室温以下2Kまでの広い温度範囲で高い絶縁性を示すものの、250K付近の限られた温度範囲でのみ電気伝導度が数万倍も増加するという特徴的な現象を発見した。この温度域において明確な構造変化が見られなかったことから、観測された伝導度の異常はバルク由来ではなく、試料表面におけるガス吸着である可能性に注目して研究を進めた。その結果、この結晶の電気伝導度がガス雰囲気に対して極めて敏感に激しく変化することを発見した。すなわち、ガスの種類や気圧の影響を感度良く反映するガスセンサーとしての機能を持つ可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間中に、分子性物質における巨大な電気磁気結合を実現するために必要である非対称な局所構造を含む複数種類の分子結晶の合成に成功している。これまでに磁場に対する明確な応答性を見出すには至っていないものの、新物質である(Fe(Pc)I)2I6をはじめ、誘電率に特徴的な振る舞いを観測している。ヨウ素を用いて真空中200℃程度での固相反応により、安価で安定な合成方法を確立した。 これらの物質合成の過程で、クロムを含む新型分子性ヨウ化物Cr2I6(Pn)4の開発に成功した。この物質において、ガス雰囲気のわずかな変化で伝導度が数万倍も変化する現象を観測し、高感度ガスセンサーとしての機能の開発可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
非対称ヨウ化物フタロシアニンを中心に電気磁気効果の検証をより精密に行う。 同時に特異な伝導特性を示す新型分子性ヨウ化物の基本特性の研究にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
非対称な結晶構造を持つフタロシアニン分子の合成に複数種類で成功し、誘電特性について調べた結果、240K付近で降温速度に依存した誘電応答現象を発見した。これまでのところ磁場依存性については当初予想していたほどの明確な兆候が見られていないため、検出に向けた測定で必要となる設備や実験計画について見直した。さらに、最近になり新型分子性ヨウ化物の合成に成功し、250K付近の限られた温度領域でのみ伝導度が数万倍も増加する特異な現象を発見した。こちらの研究にも引き続き取り組むため、3月までに購入計画をしていた物品について見直した結果未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
未使用額は、非対称分子構造で実現する電気磁気効果の検証と、新型分子性ヨウ化物が示す特異な伝導特性の研究の継続に必要な物品の購入に使用したいと思っている。
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