研究実績の概要 |
第一原理多体摂動計算手法を用いて物質のプラズマロン状態解析を進めている。プラズマロン状態とは, 準粒子とプラズモンの結合状態であり, とくに「フェルミ面近傍のバンドが他のバンドから孤立している系」や「低電子密度金属」の物性理解において重要となる。これらの系で生じるプラズモン励起のエネルギースケールは, 局所的電子間反発の大きさに匹敵するので. 電子相関効果とプラズモン励起の競合が生じる。本研究では, 第一原理計算を用いて, プラズマロン状態の定量的・微視的調査を進めている。
平成26年度は, 擬一次元導体である有機化合物(TMTSF)2PF6と、三次元強相関金属である遷移金属酸化物SrVO3について調査した。第一原理GW計算だけでなく, より定量性の高い「GW+キュムラント展開法」についてもコード開発を行った。全てのコードで大規模並列化がなされている。実験結果 (反射率, 電子エネルギー欠損スペクトル, 角度積算光電子分光, 角度分解光電子分光)との比較を行い, 開発手法の定量性について詳細な検討を行った。GW計算の段階で, よく実験結果を再現するが, GW+キュムラント展開法まで進めると, さらに高い定量性が得られることを確認した。
擬一次元物質である(TMTSF)2PF6の方が, プラズモン励起の影響を受けやすいことが分かった。これまで, この物質は, 光電子分光実験から、フェルミ準位近傍の状態密度が極めて小さいことが分かっており, これの起源について議論が続いてきたが, このたびの計算結果に基づいて, プラズモン励起による電子構造繰り込みの観点から、この問題が説明ができるのではないかと検討を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度までで, 課題申請時に掲げた方法論開発パートにおける, 全てのコード開発 (GW法およびGW+キュムラント法) が終了した。その意味で, 当初の目的を達成できたと考えている。数値計算について, 綿密な調査を行ったので, 計算に不安定要因を生み出す問題についてかなり特定できており, ノウハウが蓄積できた。同時に, この手法で吟味できる問題(すなわち適用限界)についても認識が進み, どういう対象を選べば良い成果が挙げられるかが具体的に分かってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度までに開発を行った手法を用いて, 具体的な物質の計算と実証研究を進めたい。特に擬一次元系の電子構造に着目して, 実験との詳細な検討を行いたい。低エネルギーのプラズモン励起がこれらの系で存在していることは, すでに実験事実として良く知られていることだった。しかし, 電子構造に具体的にどのように影響するのかについての議論はこれまでなされていなかった。あったとしても、現象論的な議論にとどまり、具体的な物質の定量性まで踏み込んだ議論がなされていなかった。それがため、この分野は、抽象的な議論がなされ、本当の意味での物質科学に直結する議論ができていない。本課題では, 残りの時間をかけて、これらの系に対する定量的・非経験的第一原理計算の物質科学を展開したい。こうした素励起の電子構造への定量性に関する議論は、最終的には物質の超伝導機構および転移温度予測にまでつながり、新しい展開のための萌芽となる。近年のデバイス開発の潮流はプラズモニクスやフォトにクスなど, 物質の素励起をより微細にコントロールすることに向けられており, こうした新技術に貢献できる。
|