研究課題/領域番号 |
25800201
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
中井 祐介 首都大学東京, 理工学研究科, 助教 (90596842)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 単層カーボンナノチューブ / NMR / ゼーベック係数 / 磁化率 |
研究概要 |
本年度は以下のような進展があった。 (1)未分離の単層カーボンナノチューブ(SWCNT)試料(金属型:半導体型 = 1 : 2の割合で含む)は、ゼーベック係数が小さいことが知られていた。密度勾配超遠心法によって精製した高純度半導体型SWCNT薄膜において、実用化されている熱電材料であるBi-Te系に匹敵する大きなゼーベック係数を示すことを明らかにした。第一原理シミュレーションとの比較から、熱起電力発生機構としてチューブ同士の界面の重要性を指摘した。以上の結果を論文として発表した。 (2)磁化率およびNMR測定が可能な純良SWCNT試料の精製に成功した。SWCNTは合成過程で触媒金属を使用しており、その磁性のため磁化率やNMRの系統的な測定は報告されていない。精製条件を精査することで試料の純良化に成功し、SQUID測定から直径に依存した反磁性磁化率の系統的変化を見出した。この成果は日本物理学会で発表した。 (3)直径2 nm以上のSWCNTにおける13C NMR測定に初めて成功した。先行研究ではフェルミ液体的振る舞いと朝永・Luttinger液体(TLL)的振る舞いという矛盾する結果が報告されていた。核スピン格子緩和率はTLLで期待されるべき的な温度依存性を示した。また、緩和率に直径依存性が見られることも明らかにした。この成果は日本物理学会、フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウムで発表した。 (4)試料準備の難しさからSWCNTの炭素原子間距離の精密測定は報告されてこなかった。高純度に(6, 5)エンリッチした試料と金属型SWCNT試料において放射光X線回折実験を行い、X線回折パターンとシミュレーションの比較から炭素原子間距離をSTMよりも二桁程度精密に決定できること、半径方向に炭素原子間距離が0.9 %程度大きくなっていることを、日本物理学会で報告し論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SWCNT試料の分離・精製方法を向上できたことが、研究の進展に最も寄与している。 平成25年度は磁化率・NMR測定に耐えうる試料の精製方法の確立を計画の一つにしていた。精製条件を系統的に調べることで、異なる合成方法から作られ直径の異なる様々な試料群に対して、磁性不純物のほとんどない試料精製方法の確立に成功した。その結果、NMR・磁化率測定結果に明瞭な直径依存性が見られることを見出した。また、計画以上の進展として、高純度半導体型SWCNTフィルムが示す巨大なゼーベック係数の起源に関して一定の知見が得られた。この知見からSWCNTのフレキシブルな熱電素子への応用の可能性を示せた。
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今後の研究の推進方策 |
NMR測定に見られている直径依存性を確かめるため、さらに広範囲で直径を系統的に変化させた試料においてNMR測定を行う。得られた結果を整理・解析し、これまで報告されていた矛盾を解明し結果を論文にまとめる。また、高純度半導体型SWCNTのNMR測定も計画している。磁化率測定に関しても同様に直径依存性測定を進め、結果を論文にまとめる。巨大なゼーベック係数のメカニズムを調べるために、p・nドーピングによる電子数制御や、チューブ同士の界面における熱起電力の直接観測を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
SWCNT試料の分離・精製方法の確立が計画よりも順調に進んだため、分離・精製用物品への費用が抑制された。 低温での実験が必要なため、物品費でヘリウム寒剤代を計上する。国際会議への参加や論文発表の費用をとしても用いる。
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