研究実績の概要 |
今年度は 誘電性を示すダイマーモット絶縁体である2次元有機物質kappa-ET2Cu2(CN)3やkappa-ET2N[(CN)2Cl]系をはじめとするいくつかの物質を念頭に, 動的誘電率の計算を進めるとともに, 磁化率の計算も行った. 誘電率に関しては, 昨年度より連続時間モンテカルロ法によって 横磁場イジングモデルという有効モデルの動的帯磁率(誘電率に相当する)の計算を進めている. すでに昨年度からpreliminaryな結果として 量子相転移点付近の臨界領域で応答関数が周波数依存性を示すことが分かっていたが, 今年度はより詳細に臨界指数や系の次元性依存性を検討, また実験データとの直接比較も進めている. これと関連して, kappa-ET系の中でも1次元性が強い新物質kappa-ET2(BN)4の解析を行った. この物質は三角格子の形状をもつが1次元性が強い. 上記の誘電性を示すkappa-ET2Cu2(CN)3やkappa-ET2N[(CN)2Cl]は三角格子あるいは正方格子に近い形状をしており, 前者はスピン液体候補物質である. それに対してkappa-ET2(BN)4も低温までNMR実験における(T1T)^-1のデータでは強い臨界的挙動を示しながら低温まで非磁性にとどまっている. 我々は第一原理計算と磁化率の計算を実験と合わせることによって, kappa物質系でこれまで知られたものを相図として正確に理論的にマップして全体像を明らかにすることに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
誘電性を示すkappa系での動的帯磁率の計算では, 連続時間モンテカルロ法において, モンテカルロステップを実時間とみなして時間発展方向の相関を計算するという新しい手法を導入した. 結果的に実験を再現することに成功したが, この手法自体は半経験的な保証がされているものの, 時間発展や量子揺らぎの純理論的な立場での意味づけについて現在, 基礎付けを進めている. そのため論文投稿までにまだ時間を必要としている. そのため発表にいたるところまでこぎつけていないが計算や研究自体の遂行は比較的順調と考えられる.
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