研究実績の概要 |
本研究は, 電子系の自発的不均一相形成の由来を理論的に明らかにし, 量子多体系である強相関電子系における量子的な不均一性をどう特徴づけるかを, 理解することを目標としている。 ダイマーモット絶縁体系における 電荷ダイポールの揺らぎと相関の競合の問題を, 横磁場イジングモデルという統計力学のミニマルモデルに落とし込み, これを量子モンテカルロ法による解析し 基底状態および有限温度の相図を明らかにした。 また動的な応答関数を求める新手法を開発しこれをもとにダイマーモット相と電荷秩序相の境界にある臨界領域において動的応答関数が冪的に振る舞うことを確認, 電荷間の相関長が臨界指数に応じて温度が下がるに従いでほぼ無限長まで伸びる事実が, 応答関数のピーク構造としてユニバーサルに現れることを明らかにした。さらに第一原理計算を一連の2次元分子性結晶ET塩について系統的に行った結果, 実際の物質が上記の相図の臨界領域に位置することも 明らかにし, 実験を基礎的な統計物理学で得られた知見で理解できることを示した。 一方、2次元量子相における不均一性をどう特徴づけるかという重要な課題に将来的に取り組むことを念頭に、古典系においてsine square deformationというハミルトニアンの変形を用いた新手法を考案し、まず2次元古典イジングモデルに対して 適用した。その結果, これまで温度パラメタを変えながら行っていたモンテカルロ計算を、1つの温度で広い温度パラメタにおけるデータについて得ることができることを示した。この手法の背後には実空間繰り込みの考え方が存在する。その考えを応用し、実際に2次元イジングモデルの転送行列で解析した結果, 80年来解けないと信じられていた任意のボンドランダムネスをもつイジングモデル が厳密に解けることを明らかにすることができた。
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