研究実績の概要 |
SPring-8 BL23SUに設置されている軟X線内殻吸収磁気円二色性(XMCD)測定装置に導入・整備してきた長距離望遠鏡とCCDカメラを組み合わせた試料の位置出し機構を活用し、ウラン化合物強磁性超伝導体URhGe対して主にU N4,5吸収端でのXMCD実験を実施した。
平成27年度は、平成26年度までに得られている実験結果の再現性の確認も含め、引き続き強磁性磁化容易軸であるc軸に対するXMCD実験を行った。特にウランサイトにおける元素選択的磁化曲線の温度依存性を詳細に調べた。その結果、バルクの磁化曲線とよく一致する結果が得られた。このようにXMCD強度は温度と磁場に敏感に依存したが、スピン磁気モーメントに対する軌道磁気モーメントの比(L/S)は、温度や磁場に依存せず変化しなかった。 上記に加え、磁場印加によりリエントラント超伝導が観測されるb軸に対するXMCD実験も行った。c軸に比べて磁化が小さいのでXMCD検出は困難になると予想していたが、b軸でも明瞭なXMCDスペクトルおよび元素選択的磁化曲線を取得することができた。b軸においてもL/Sは温度や磁場に依存しなかった。しかし、c軸とb軸のXMCDスペクトルを比較すると、N5に対するN4でのXMCD強度に違いが観測されており、c軸におけるL/Sの値がb軸に比べて大きいことが分かった。これはURhGeの磁気異方性を理解する上で重要な知見である。 一方、URhGeおよび他のウラン化合物強磁性超伝導体(UCoGeおよびUGe2)に共通に含まれるゲルマニウム元素にも注目し、Ge L2,3吸収端でのXMCD実験も試みた。結果、非磁性元素であるゲルマニウムサイトにもXMCD信号が観測され、磁気分極していることが分かった。今後、他の強磁性超伝導体においても実験を行い比較検討すべきと考えている。
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