研究課題/領域番号 |
25800209
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
中堂 博之 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 任期付研究員 (30455282)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | スピントロニクス |
研究概要 |
バルクのYIG(Yttrium Iron Garnet)を用いてFe-57核の核スピンポンプ実験を行った。当初は薄膜YIG表面上にPt(10nm)/Nb(10nm)配線を施す予定であったが、NMRの信号強度を測定しやすくするために比較的大きな(8*8*2mm)バルクの試料を用い、Nbが腐食するリスクをさけるため、Pt(10nm)/Au(100nm)を施した。配線の描画はマスクパターン (線幅100um)を用いた。室温、1kOeの磁場下において57Fe NMR信号を64MHz付近と75MHz付近に観測し、信号強度の強い64MHz付近のNMR信号に対して、64MHzの連続波を試料に照射しつつ磁場を掃引し、配線両端に生じる起電力の磁場依存性を測定した。核スピンポンプによる信号は小さいことが予想されるため、磁場掃引信号を積算できるよう磁場と測定系を同期する制御系を構築した。その際、ロックインアンプを使用する予定であったが、既に所有しているナノボルトメーターで予備的な実験を行った。 まず問題となったのは、比較的大きなフェリ磁性体を試料に用いたため、同調回路のインダクタンスが磁場掃引によって大きく変化することである。このため、同調回路の特性周波数が変化してしまい試料に固定周波数を照射できない状況となった。また、RF波照射により同調回路が発熱し、熱起電力が生じていることがわかった。この信号は磁場反転に対して起電力の符号も反転しているため、スピンゼーベック効果を原因とする信号であると考えられる。信号強度は伝送波の振幅の増大に伴って増大し、100回程度の平均化で1~10nVのオーダーで測定できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定とは若干異なる方法ではあるが核スピンポンプの測定を行い、構築した実験系の動作確認や問題の洗い出しを行う意味で予備的な実験を行った。試料電極の両端に生じる起電力を、磁場掃引を繰り返しながら平均化し、S/N(signal/noise)比を改善するため、磁場掃引と測定系を同期するシステムを構築した点に関しては、目的とする信号は見えなかったが、1-10nVのスピンゼーベックの信号は見えているということから、同期に関しては成功しており、また、実験系は正しく動作していることが確認できた。ナノボルトメーターのノイズレベルは10nV程度であるが100回程度の平均化で1nVオーダーの信号がはっきり見えるレベルまでS/Nは改善している。ナノボルトメーターは室温の変動等による表示電圧のドリフトがあるが、平均化によってそれも消すことが出来た。 また、当初は想定していなかった問題が生じた。問題点は同調回路の特性周波数のドリフトと、回路の発熱によるスピンゼーベック効果を如何に除去するかである。これら二つの問題の複合的な効果により、外因的な信号が見られた。つまり、磁場掃引により特性周波数がドリフトし、伝送波の周波数と一致したところで回路が発熱し信号らしきものが見えるのである。
|
今後の研究の推進方策 |
核スピンポンプ実験において、まず、当初想定外の問題となった同調回路のドリフトを解決することに取り組む。このドリフトは試料の磁化の変化による回路のインダクタンスの変化が原因であるので、試料体積を小さくすることである程度は改善できる見込みである。当初用いる予定であった薄膜試料を用いるのが妥当と思われる。本年度の予備実験によってNMR信号の周波数と強度はわかっているので、薄膜を用いても液体窒素温度であればNMR十分信号は観測できると思われる。これでも同調回路のドリフトがあるようなら、可変容量コンデンサの容量を磁場掃引に同期し、特性周波数が磁場に対して変化しないような実験系を構築する。これは可変容量コンデンサにステッピングモーターを取り付け、あらかじめ測定したドリフトに対して、特性周波数が変化しないよう可変コンデンサーの軸をコンピューター制御によって回転することで解決を試みる。これでドリフトの問題が解決できればスピンゼーベックの信号は電圧のオフセットとして残るが、もし核スピンポンプのシグナルがあれば起電力のピークとして明確に区別できると予想される。もし、ドリフトが解決できなければロックインアンプを用いて測定する。この場合、核スピンポンプの信号は変調する成分として測定できるが、発熱による信号は直流であるので、スピンゼーベックの信号は分離できるはずである。 核スピンポンプの信号強度増大にも取り組む。本年度使用した試料(配線幅100um)では核スピンポンプらしき信号は見られなかったので、EBリソグラフィーによる描画を試みる。直列の長い配線を施すことが必要となってくるので、試料表面のゴミや欠陥による断線、また、Pt/Au配線の接続不良等の問題が想定されるため、配線幅10um程度から作成し始め、製膜行程を検討しながら順次線幅を細めていく予定である。スピン注入実験や音波注入実験にも取り組む。
|
次年度の研究費の使用計画 |
当初はロックイアンプを購入し測定する予定であったが、ロックインアンプの仕様を検討するため、既に所有しているナノボルトメーターで実験系を構築し予備実験を行った。その結果、回路発熱によるスピンゼーベック効果の信号が測定されていることが確認できた。これは本来目的とする核スピンポンプの信号にACの変調を加えれば、発熱による信号はほとんどDCと考えられるので、ロックインアンプを用いて二つの効果を分離して測定できる可能性を示唆している。その際、変調の周期が早い方が発熱の効果は長いられることが予想されるが、核スピンポンプの信号線幅との兼ね合いもあるので、今後の予備実験によって仕様を確定する。 薄膜試料にEBリソグラフィーにより微細加工を施した試料を早期に作成することと平行して、ナノボルトメーターを用いた実験系で予備実験を行い、本年度明らかとなった問題解決に取り組む。ロックインアンプの購入が有力な解決策となった場合は出来るだけ早期に購入する。ナノボルトメーターで測定が可能と判断した場合には、代わりにエレクトロメーターの購入を検討する。微細加工を施した試料の評価には電気抵抗測定が必要であるが、直列配線の細線であるため50Mオーム程度の抵抗となることが予想される。そのため、大抵抗の測定に適したエレクトロメータが必要となることも考えられる。
|