研究課題/領域番号 |
25800221
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上田 宏 独立行政法人理化学研究所, 古崎物性理論研究室, 基礎科学特別研究員 (40632758)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | テンソルネットワーク / エンタングルメント / 射影表現 / 行列積状態 / 密度行列繰り込み群 / フラストレート系 / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
本研究は1次元量子系の解析に効果的である行列積状態(MPS)の高次元系への拡張として議論されるテンソルネットワーク状態を利用した手法を提案し、2次元量子スピン系の基底状態および低エネルギー励起状態を精密に取り扱うための数値計算手法の構築を目的とし、併せて、実験的に合成された物質系の有効模型に対しての適用・解析も行っていく。
2年目となる本年度は、擬1次元量子多体系に現れる自発的対称性の破れを記述する秩序変数で特徴づけ困難な「対称性に守られたトポロジカル相(SPT相)」を議論するために有用なMPS法(iDMRG法)を作成することからスタートした。次に、これを擬1次元銅酸化物の有効模型となる最近接が強磁性的,次近接が反強磁性的な相互作用を持つフラストレートしたスピンS=1/2XXZジグザグ交替鎖及び双1次・双2次交換相互作用を持つSU(3)1次元鎖の基底状態解析に適用した。
その結果、フラストレートスピン鎖に存在する2つの実空間反転を破ったダイマー相間に現れる連続相転移が時間反転対称性によって守られたSPT相転移であることを明らかにし、エンタングルメントエントロピー(EE)の示すスケーリング則から共形場理論のセントラル・チャージc=1 で特徴づけられる臨界性を持つ相転移であることを明らかにした。また,SU(3) 鎖に現れるZ3×Z3 対称性によって守られたZ3SPT相とダイマー相の間に連続相転移が存在し、EEの示すスケーリング則からc=16/5で特徴づけられる臨界性が現れることを数値計算により明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,テンソルネットワークのアップデートに必要な(高次)特異値分解の手続きなどの予備調査などは概ね完了し、現在、最適化法のコーディングを継続して行うことができている。
2次元量子系をターゲットにした計算はまだ行われていないが、その代わりに、今年度は対称性に守られたトポロジカル相といった低次元量子系において近年注目されている現象を解析するための数値的手続きを習得することができた。さらに、行列積状態を利用した量子多体系の動的性質(実・虚時間発展問題)を解析するための数値的手続きも習得することができた。これらの知識はテンソルネットワークを利用した手法にも拡張が可能である。
以上を包括的に見れば「おおむね順調に本研究は進展している」と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
高次元量子多体系に対するシミュレーション手法の構築の一環としてThick-Restart Lanczos法などに代表されるリスタート付き部分空間反復法とテンソルネットワーク状態法を組み合わせた手法の開発を行う。部分空間反復法は次元性に依らず状態の最適化を速やかに行うことができる手法である一方で,サイト数に関して指数関数的に増大するベクトル次元により取り扱えるサイト数が少数となる問題を、部分空間を張るベクトルを自由度有限の(MPSを含む)テンソルネットワーク状態に射影し、それらの線形結合で適切な変分状態を構成することで回避することが狙いである。以上のテンソルネットワーク法のコーディングとベンチマークの作成を本年度は行いたい。
併せて、近年新しいテンソルネットワークのクラスとして提案されたテンソルネットワーク繰り込み群が古典3次元系における臨界性の解析にどこまで有効的かを調査し、現実的な量子2次元系への適用可能性について明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を遂行するために必要な計算機の購入が遅れているため
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進展具合に合わせて計算機を購入する。 その他、出張などに関しては予定通り行い、計画通りに予算を執行する。
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