本研究は1次元量子/2次元古典多体系の解析に効果的である行列積状態の高次元系への拡張として議論されるテンソルネットワーク状態を利用した手法を提案し、2次元量子スピン系の基底状態および低エネルギー励起状態を精密に取り扱うための数値計算手法の構築を目的としている。併せて、実験的に合成された物質系の有効模型に対しての適用・解析も行っていく。
昨年度から引き続き、スピン空間や実空間の対称性を同時に考慮することで量子多体系に対するテンソルネットワーク手法の高度化を推し進めるための予備的な研究として、2次元量子スピン系の飽和磁場付近の解析に特化した数値対角化手法の開発を行った。これを利用して、先行研究において最大108サイトの対角化の計算で消失が示唆された三角格子上のスピン1/2量子XXZ模型の飽和磁場近傍における量子相に関して、最大1296サイトの対角化計算を実施することで、量子相消失の示唆の手続きに誤りがあることを示すことに成功した。
2次元古典系の相転移近傍においてテンソルネットワーク法の一種である角転送行列法を実施することで相転移の臨界性とシミュレーション精度の関係を明らかにし、秩序変数に頼らずに1次元量子多体系並びに2次元古典系の臨界現象を正確にとらえるための手法を開発した。2次元正方格子上の離散化されたハイゼンベルグ模型(正20面体模型)の統計力学的性質を角転送行列及び本研究課題で開発したスケーリング理論を用いて解析し、2次元共形場理論のミニマル模型で説明できない秩序・無秩序の2次相転移が存在することを明らかにした。
|