本研究課題では「極低温原子気体との共同冷却によるイオンの振動基底状態冷却」を最終目標として掲げ研究を行ってきた。最終年度では上記課題の実現において重要となるイオン・原子間相互作用、特に両者間の「非弾性散乱過程のエネルギー依存性」について詳細に調べた。とりわけ、ミリケルビンから数ケルビンという広い衝突エネルギースケールでの衝突特性を明らかにすることが出来たのは大きな進歩であるといえる。この成果は未だ究明されていない星間分子反応などの極低温化学反応のダイナミクスの解明への足掛かりとなるため、当該研究分野において重要な意義を持つと考えられる。 研究期間全体を通しては、「極低温イオン・原子混合系の構築」、「イオン・原子間の弾性散乱および非弾性散乱の観測」及び上記の「非弾性散乱過程のエネルギー依存性の解明」が主な成果として挙げられる。これらの結果を通して、本研究で用いているイオン・原子混合気体中の散乱断面積や、支配的に起こる非弾性散乱過程パスの特定等を行うことができ、本物理系での基礎的な物理特性を把握することが出来た。これにより、最終目標であるイオン原子間の共同冷却実現に向けて概ね準備が整えられたと言える。 さらに現在の研究では、実際に期待されるイオン・原子間共同冷却実験における冷却効果の検証に必要となる、イオンの温度評価技術の開発に着手しており、当初掲げていた目標到達が目前に迫っていると言える。
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