研究課題/領域番号 |
25800228
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
段下 一平 京都大学, 基礎物理学研究所, 助教 (90586950)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 冷却気体 / 光格子 / 量子相転移 / 位相滑り |
研究概要 |
1995年にアルカリ原子気体のボース・アインシュタイン凝縮体の生成が実現されて以来、冷却気体系はその前例のないほどのパラメータ制御性、希薄さ、清浄度(不純物や格子欠陥のなさ)の三点が大きな強みとなって、飛躍的な発展を遂げてきた。近年の実験研究では、三つの利点のうち清浄度を意図的に下げる試みがなされている。例えば単一不純物ポテンシャルや乱雑ポテンシャルが実現されている。これらの実験の狙いは、通常の凝縮系において普遍的に現れる系の乱れの効果を、微視的なハミルトニアンを制御下においた状況で調べるという点にある。本研究では、極低温の量子気体に対する不純物ポテンシャルの効果を明らかにすることを目的としている。特に、実験で精密な制御が可能である一成分ボース気体と二成分(ボース-ボース、ボース-フェルミ、フェルミ-フェルミ)気体を対象としている。 一成分ボース気体に関しては、気体中に単一不純物がある場合を考え、気体の二重極振動の減衰を調べた。解析的な考察とtime-evolving block decimation法による厳密な数値計算から、二重極振動の減衰率と位相滑りの生成率を関係づける公式を導出した。これによって位相滑りによる超流動流の崩壊を実験で実証することが可能になると同時に、位相滑りの生成率を数値的に厳密に与えることも可能になった。 ボース-ボース混合気体に関しては、不純物のない清浄な系ですら基底状態において未知の事柄がいくつもあったので、今年度は不純物がある場合の研究の地盤を固める上でこれらの未知の事柄を明らかにする必要があると判断した。光格子中のボース-ボース混合気体の量子相図を厳密な数値計算によって描き、そこに三重臨界点が存在すること、三重臨界点を通る超流動絶縁体転移が新しい普遍性属性を持つことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行する上での重要な要素の一つである「二重極振動の減衰という動的性質から量子相転移現象を特徴付ける」というアイデアが、アメリカ物理学会のPhysical Review Letters誌に掲載されるというかたちで認められたことは大きな成果として強調できる。この成果を含むこれまでの一連の研究成果によって研究代表者は日本物理学会若手奨励賞を受賞した。また、光格子中のボース-ボース混合気体の超流動-絶縁体量子相転移に関して新奇な性質を見いだすなど、着実に研究の次の段階に向かって歩を進めており、これらの状況を総合して平成25年度の研究はおおむね順調に進展したと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
より効率的な研究の進行のために、数値計算コードの改良を検討する。具体的には実時間発展部分のMPIを用いた並列化によって開境界条件の計算は格段に早くなることを見込んでいる。また、有限温度の計算に関しては、最近厳密対角化に関して初めて適用された「熱的純粋量子状態」をtime-evolving block decimation法と組み合わせることで計算が速くなるかどうかを検討する。この純粋状態に基づく手法では、混合状態を用いる従来の方法に比べて計算コストが格段に押さえられると期待される。 平成25年度に得られた成果は、量子位相スリップの観測法や三重臨界点近傍における超流動転移温度の化学ポテンシャル依存性といった実験で実現可能な提案をすでに含んでいる。具体的には、前者の量子位相スリップに関しては、動く光格子を用いて一次元ボース気体の超流動流の崩壊を引き起こした際に、その発熱と位相スリップの生成率を関係づけられると予想している。動く光格子を用いると超流動流の速度を非常に精密に制御できるため、実験での量子位相スリップの観測に有用であると考えられる。後者の三重臨界性に関しては、顕微鏡を用いた単一サイト解像度の密度測定から観測可能であると考えている。これらの興味深い現象の実現に向け、実験家との議論を深め、必要に応じて追加の計算を提供する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の出張予定が増えたため当該年度分の予算を次年度にまわした方がよいと判断したため。 7月に理化学研究所の共同研究者との議論のために数日間(3日か4日)の出張を予定しておりその費用に充てることを計画している。
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