本研究課題では、極低温の量子気体の量子相転移現象と超流動トランスポートに対する不純物ポテンシャルの効果を明らかにすることを目的としている。前年度までの研究では、超流動秩序変数が非相対論的である非線形Schroedinger方程式に従う場合を主として調べた。今年度の研究では、より非凡な例として、超流動体が相対論的である場合の不純物効果に関して新奇な結果を得た。 超流動Bose気体を光格子中に閉じ込めてMott転移近傍まで格子を深くすると、系が粒子・正孔対称性を獲得してその結果として超流動秩序変数が相対論的な非線形Klein-Gordon方程式に従う。この相対論的な超流動体では、秩序変数の位相揺らぎに対応するギャップレスのNambu-Goldstone (NG) モードに加えて、振幅揺らぎに対応するギャップフルのHiggsモードが存在する。このHiggsモードは、素粒子としてのHiggs粒子と数学的な構造が非常に類似しているため、Higgsの名を冠して呼ばれる。素粒子物理での2012年の発見に刺激を受けて、近年凝縮系物理学でもHiggsモードの研究が盛んになっている。光格子中のボース気体系においてもHiggsモードを観測しようと試みる実験が行われている。 応募者は、Higgsモードに対するポテンシャル障壁の効果を考え、粒子・正孔対称性を破らない障壁がある場合に、Higgsモードの束縛状態という新奇な素励起を見出した。このHiggs束縛状態は障壁の周りに局在し、バルクのHiggsギャップΔよりも低い束縛エネルギーを持つという点で、遍歴状態である従来のHiggsモードとは全く異なる。このHiggs束縛状態の存在に起因する劇的な効果として、粒子・正孔対称性を破る障壁がある場合には、Higgs束縛状態を介したNGモードの Fano共鳴トンネル現象が起こることを示した。
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