研究課題/領域番号 |
25800230
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
香川 晃徳 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (70533701)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 量子シミュレーション / 磁気相転移 / 磁気共鳴 / 動的核偏極 / 核スピン / 電子スピン |
研究概要 |
本研究では核スピンを用いた磁気相転移の量子シミュレーションの実現を目指している。量子シミュレーションは古典的なコンピュータでは困難な量子多体問題を解析することが可能である。我々の実験を行うにはまず核スピンの偏極率を高めてスピン温度を低くする必要がある。核スピン間の結合強度を考慮するとマイクロケルビンオーダーまでスピン温度を下げなければならないため、電子スピンの高偏極状態を核スピンに移す動的核偏極を行う必要がある。そこで本年度は高磁場、極低温下での核スピンの高偏極化を行うための実験装置の開発とサンプル作製を行った。サンプルは高偏極化により核スピンの磁気相転移が起こることが知られているフッ化カルシウム単結晶を作製した。フッ化カルシウムにはTmをドープし、アニール処理することで不対電子スピンをもつTm2+を生成した。実験系では主に導波管とWeisらによって提案されたENDOR(Electron Nuclear DOble Resonance)共振器の開発を行った。それぞれパラメータを変えて電磁界シミュレータによって性能を評価した後、試作を行った。その結果、希釈冷凍機内で用いることが可能な低損失の導波管と高効率の共振器の開発に成功した。作製したサンプルを用いて4.2Kの環境下で実験を行った結果、動的核偏極により19Fスピンの偏極を数%に高めることに成功した。また数値的手法により核スピン間のハミルトニアンを実効的に量子シミュレーションを行うためのハミルトニアンに変化させる照射パルスを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
磁気相転移を起こすには核スピン間の結合エネルギーよりスピン温度を下げる必要がある。高磁場、極低温下でサンプルにマイクロ波を照射して電子スピンと核スピンの状態を交換すれば核スピン温度を十分に下げることができる。そこで本年度は希釈冷凍機内でも利用可能な、低電力でスピンを操作できるENDOR共振器や低損失のOversized導波管を作製した。開発したそれらの装置を用いた動的核偏極の実験によって核スピン偏極を数%に高偏極化させることに成功した。また核スピン間ハミルトニアンの操作のための変調パルスを数値計算により作成した。以上の成果から本研究は、当初の研究計画に従っておおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度開発した実験装置を熱流入の観点から改良し、極低温下で動的核偏極を行う。実験条件を最適化することで核スピン偏極を磁気相転移に必要である数十%以上に増大させる。また本年度に作成した変調パルスを拡張した核スピン間の双極子結合を強度的に制御できるパルスの作成法ついて検討する。それらを用いて偏極率、結合強度などをパラメータとして磁気相転移の量子シミュレーションの実現を目指す。また平均場近似により計算を行った結果、室温下での光励起三重項電子スピンを用いた動的核偏極で得られる偏極率でも磁気相転移が起こる可能性を見出しており、その物質系でも量子シミュレーションの実現性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験装置の開発により液体ヘリウムを用いた低温下での実験の回数が少なかったため予定していた使用額より少額になった。 希釈冷凍機を用いて極低温下で実験を行うため、前年度で繰り越した助成金分を増額して液体ヘリウムを購入する。また同軸ケーブルやコネクタなどの高周波部品を購入する。研究成果の学会発表、情報収集のための旅費として使用する。
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