研究課題
本研究では、申請者所属のグループが世界で初めて開発に成功し、次世代時間標準の有力な候補の一つである「イッテルビウム(Yb)光格子時計」の更なる高精度化を目的としている。現在のYb光格子時計の主要な不確かさの一つは、原子を取り囲む環境からの黒体輻射シフトに起因する。これは、環境温度の測定の不確かさが大きいことが原因である。そこで、時計遷移の上準位からn(主量子数)が15~40のRydberg状態への遷移周波数を測定し、原子を取り囲む環境温度のその場(in-situ)測定により環境温度を求める。これは他の理論グループにより提案された手法であり、本研究でこの手法の実証を目指す。昨年度までに、磁気光学トラップ(MOT)中のYb原子の数を増大させることを目的として、大強度の399nm光源を開発し、周波数安定化を行った。しかし、Yb光格子時計が不調であり目的のRydberg原子生成には至らなかった。一方、本研究の目的であるRydberg遷移周波数測定による環境温度の測定は、ストロンチウム(Sr)光格子時計でも可能である。Sr原子の時計遷移は、Yb原子と同様に次世代の時間標準の有力な候補である。そこで本年度は、Sr光格子時計を用いた本研究の遂行の可能性を検討した。そのためには、現状のSr光格子時計の精度をさらに上げる必要があったために、Sr光格子時計の絶対周波数測定をさらに進めた。測定方法に工夫を施すことにより、以前に本グループが測定した結果よりも、3倍以上の高精度での絶対周波数測定に成功した。この成果は、2015年9月に行われた国際度量衡委員会傘下の関連会議にて議論され、Sr原子の時計遷移の推奨周波数値と不確かさの更新に寄与した。上記のRydberg遷移周波数の測定には至ってはいないが、それに向けた足場を堅牢に固めることができたと言えるだろう。
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Journal of the Physical Society of Japan
巻: 84 ページ: 115002-1~2
http://dx.doi.org/10.7566/JPSJ.84.115002
https://unit.aist.go.jp/ripm/time-stdg/index.html