研究課題/領域番号 |
25800233
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐久間 由香 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40630801)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ベシクル / 化学刺激 / 膜変形 / 分子形状 / 国際情報交換 / フランス |
研究概要 |
本研究では、ソフトマター物理を生命系へと展開するために、化学的な刺激に対するソフトマターメソ構造体の応答を理解することを目指している。本研究代表者はフランスのチームとの共同研究により、モデル生体膜にpH勾配を与えると膜表面でのpHの伝搬に強く結合して膜変形挙動が大きく変化することを見いだしている。これは、化学刺激により膜分子の幾何学的形状が変化するために膜変形が誘起されることを示している。そこで、平成25年度はpHと膜の変形量の関係を定量的に測定し、そこからpH変化による脂質分子面積の変化を膜弾性エネルギーモデルにより評価することで化学刺激を脂質分子の形状変化へと置き換える。このような実験・解析を化学刺激種や脂質のイオン性を変化させて行ない、得られた脂質の幾何学的変化が脂質分子のイオン基の乖離状態から見積もったイオン半径と整合するか検討した。 様々な化学刺激種と脂質のイオン性との組み合わせで実験を行なう中で、特定の組み合わせに於いては化学刺激によりモデル生体膜表面に孔が空くことがわかった。これまでに脂質の幾何学的形状と温度による膜面積の変化を結合することでモデル生体膜表面に孔を開けることに成功しているが、今回観察された化学刺激による孔形成に於いても、化学修飾により膜分子の断面積と幾何学的形状が変化していることが孔形成に密接に関係していることが予想される。このため、化学刺激種と脂質のイオン性の組み合わせ等について、膜面上に孔を開けるための条件を詳細に調べた。本研究では、「化学刺激を分子形状の幾何学的変化に置き換えることにより、その膜変形ダイナミクスを膜弾性エネルギーモデルで理解できる」というコンセプトを検証し、化学場がもたらすユニークな膜変形ダイナミクスを解明することを目的としているが、今回得られた結果はこのコンセプトの妥当性を裏付ける大きな鍵となると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は化学刺激とそれによる膜の変形量の関係を定量的に測定し、そこから化学刺激による脂質分子面積の変化を膜弾性エネルギーモデルにより評価することで化学刺激を脂質分子の形状変化へと置き換えることを目的としていた。脂質分子面積の変化を膜弾性エネルギーモデルにより評価するところまでは至らなかったが、化学刺激により膜変形の中でも生命体に特徴的な孔形成を観察することができた。化学刺激により、孔形成というトポロジー変化を伴う膜変形までも制御可能であるということが明らかになったことはソフトマター物理を生命系へと展開する上で大変意義があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず化学刺激による脂質分子面積の変化を膜弾性エネルギーモデルにより評価することで化学刺激を脂質分子の形状変化へと置き換える。この結果を踏まえて、孔形成が観察される場合の脂質分子の形状変化の条件を明らかにする。さらに、生体膜に特徴的な不均一構造(脂質ラフト)に対する化学場の特異性を、相分離したモデル膜に化学刺激を与え、その応答の選択性から評価する。 また、本研究代表者が見いだした化学刺激による球殻状モデル生体膜の自己駆動の機構を、化学種勾配とモデル生体膜の移動速度の関係から明らかにするとともに、相分離を利用した非対称モデル生体膜の自己駆動の制御にも挑戦する。
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