研究課題/領域番号 |
25800236
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小西 隆士 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 助教 (90378878)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高分子 / 結晶化 / 液晶 |
研究概要 |
申請者は高分子の中間状態を経由する結晶化機構を提案している。本研究ではメソポーラス媒体を用いた拘束空間、及び、高圧下での結晶性高分子の振る舞いを測定することで、準安定中間相の直接的な証拠を得ることを目的として実験を行った。 結晶性高分子であるポリブチレンテレフタレート(PBT)について、メソポーラス内での結晶化させたPBTの融解挙動についての実験を行った。メソポーラス内で結晶化させたPBTの融解挙動は、通常の結晶化で見られる多重融解ピークとほぼ同じ位置に出現したが、それぞれの割合が異なった。この原因について、今のところ、昇温過程でおこる融解再結晶化の速度がメソポーラス内では通常よりも遅くなるためと考えている。この結果は、昇温過程での再結晶化挙動においても外場の影響を受けやすいことを意味している。これは我々のモデルにおいて結晶サイズの分布は2つ以上存在するという指摘と矛盾しない結果である。 本年度予定していた高圧実験について、温度変化可能な高圧装置が完成した。テストとしてシンジオタクチックポリプロピレン(sPP)で実験を行ったところ、圧力下で結晶化が起こることを確認した。次年度ではこの装置を用いて、高圧下での結晶化機構および融解過程での結晶サイズの圧力・温度依存性を調べることで中間相の直接観測に挑戦したい。 また、常圧でのPBTの球晶成長過程の観察を行い、その球晶速度依存性およびモルフォロジー変化について調べた。その結果、208℃付近で球晶の成長速度の温度依存性に変化が現れ、208℃以上と以下の温度依存性から見積もった平衡融点はそれぞれ270℃と250℃になった。この結果はこれまでの我々の実験結果と矛盾せず、中間相を経由する結晶化過程の存在を支持する結果となった。また、球晶の複屈折挙動が通常観測される挙動と大きく異なることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高圧装置の購入からセットアップまで当初の予定より遅くなり、有用な実験が行えなかった。また、メソポーラスの実験に関してはおおむね順調に行えていると考えている。しかしながら、「研究実績の概要」でも触れたように、当初の予定になかった「常圧でのポリブチレンテレフタレートの球晶成長過程の観察」において二種類の平衡融点を見積もることができ、また、球晶の複屈折の新奇な温度依存性を見出すことに成功した。この結果を加味すると高分子結晶化の研究の進展は十分にしていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
高分子におけるメソポーラス内での結晶化及び融解挙動についての実験を継続するとともに、完成した高圧装置を用いて、高温高圧実験を行う予定である。 メソポーラスを用いた実験において、前年度の実験では、多重融解ピークの割合が通常の結晶で見られるピークと異なることを見出し、その割合からメソポーラス内では再結晶化速度が遅くなるということを見出した。しかしながら、その定量的な解析は行っていないので、今年度は定量的な解析を行う。さらに、他の様々な高分子物質を用いることで、物質依存性にも着目をして実験・解析を行う予定である。 高圧実験においては高分子の等温等圧結晶化過程および結晶の融解挙動について実験を行う予定である。特に結晶サイズの圧力・温度依存性について着目をした実験・解析を行うことで、中間相の存在を明らかにしていきたい。また、可能ならば高温高圧下で中間相の直接観測を行いたい。具体的には、これまで常圧下での実験で既に知見のあるポリブチレンテレフタレートやシンジオタクチックポリプロピレンを用いて、ガラス及びメルト状態からの結晶化を高温高圧下で行い、その結晶化過程および融解過程を小角・広角X線散乱法をもちいて測定することを予定している。また、高圧下でのシンジオタクチックポリプロピレンのメゾ相からの結晶化過程について、小角・広角X線散乱測定を用いて実験を行い、大気圧下での変化との違いについて考察する。その実験の際にはSPring8等の放射光施設を利用する予定である。 また、前年度で当初の予定になかった「常圧でのポリブチレンテレフタレートの球晶成長過程の観察」において球晶の複屈折の新奇な温度依存性を見出すことに成功したので、その原因について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
「研究実績の概要」および「現在までの達成度」でも述べたように、当該年度に予定していた高圧下での結晶化実験において、高圧装置の完成が遅れた。そのために当該年度である程度実験を行い、必要なスペックを検討してから、発注を予定していた「開口サイズの異なる高圧セル」の発注が遅れ、当該年度中に発注ができなかった。そのセルの購入分の費用を次年度へ繰越をしたために「次年度使用額」が生じた。 次年度購入を予定している「開口サイズの異なる高圧セル」は広角X線測定用として予定してる。このセルは、現在使用しているものに比べて少し窓の広いものになっている。これは当該年度で高圧装置のセットアップが完了し、ある程度実験を進めてから、実験に要求させるスペックを検討してから、購入を予定していたもので、次年度で必要なスペックの確認を終え、購入することを予定している。
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