「含水シリケイト始原核モデル」(以後「含水核モデル」と呼ぶ)に基づき新たに開発した巨大氷衛星内部進化プログラム,および当該研究費によって整備した計算機環境を用いて数値実験を行った. 「巨大」とはいえ太陽系最大の衛星であるガニメデもその半径は火星より数百km小さく,集積エネルギーによる加熱が不十分なため,比較的低温な状態で形成すると想像される.従って,H2Oの融点に沿った温度構造をもつ含水核が中心に存在し,その外側をH2O層が覆う二層構造を初期状態とする.鉱物中の長寿命放射性核種が含水核を加熱し,やがて温度が900Kに達すると鉱物の脱水が生じる.これは粘性率の急増(熱輸送効率の急減)をもたらし,内部温度はさらに上昇,さらに脱水が進むという正のフィードバックが働く.脱水した水は上昇しH2O層に付加され,衛星全体の体積が増加する.このイベントは計算開始(衛星形成完了)後1~2億年に発生する.ガニメデではこうしたプロセスが有効に働く一方,半径が約200km,平均密度が約0.1g/cc小さい(すなわち衛星全体に占める岩石含有率が小さく,放射性熱源量が小さい)カリストでは加熱が十分でなく,脱水量や衛星体積の増加も小さい.なお,外側のH2O層は岩石に比べて有意に柔らかく熱を輸送しやすいため,その固液状態の変化(地下海の有無)は含水核の熱的進化にほとんど影響を与えない. 従来の木星系探査により,ガニメデには全球的な伸張性断層が存在し,その地質年代が約20億年前を示すのに対し,カリストではそのような地質活動の痕跡が一切見られない.本研究の計算結果はガニメデの地質活動とその発生年代に調和的であるとともに,二衛星の差違も説明可能である.土星衛星タイタンは半径と平均密度がいずれもガニメデとカリストの中間的な値を持ち,本研究の結果ではガニメデよりその規模は小さいものの脱水と衛星体積の増加が発生する.
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