研究課題/領域番号 |
25800250
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山田 耕 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (60424793)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 惑星移動 / ダスト / 原始惑星系円盤 / トルク / 地球型惑星 |
研究実績の概要 |
地球質量程度の惑星は円盤ガスとの重力相互作用によってその軌道長半径が変化する。この物理過程は惑星移動として知られている。惑星移動の向きと速度は、リンドブラッドトルクと共回転半径付近で生じる共回転トルクの2つの和によって支配されている。先行研究から、温度分布が固定されている、もしくは、輻射が強く、即座に平衡温度に落ち着く場合(光学的に薄い円盤)ではリンドブラッドトルクが共回転トルクよりも卓越して、惑星は高速で中心星方向に動くことがわかっている。一方で、断熱的な円盤(光学的に厚い円盤)ではガス円盤の温度構造がある条件を満たすと、共回転トルクがリンドブラッドトルクを凌駕して、惑星移動が逆向きになる。しかし、このよう状態はパラメータ空間において非常に狭い領域しか存在せず、大部分は基本的に内向きの惑星移動である。惑星移動の振る舞いはその後の惑星の進化過程に大きな影響を与えるため、惑星移動に影響する効果をそれぞれ精査することは重要な仕事である。 共回転トルクの大きさは渦度およびガス密度と密接な関係がある。ガス密度は温度分布によって変化する。一方で、渦度はガス流れ、つまり力学的な状態で大きく変化する。本研究ではガスとダストとの間の相互作用による渦度変化に起因したダストの惑星移動への影響に注目したものである。今までの研究ではガスと惑星との間の相互作用のみを考えていたため、惑星重力以外に渦度を変化させるものはなかったが、本研究ではダストがガスの渦度を変え得る要素として存在する。したがって、ダストによる渦度変化を通した共回転トルクの変化幅を見積もる。本年度は、ダストサイズとガスダスト比を変えて、惑星にかかるトルク量の変化を系統的に調査した。その結果、それらのパラメータが増加すると、ガスからの共回転トルクが若干増加することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
惑星質量が4倍の地球質量の時の惑星移動に対する、ダスト半径=0.01~2cm、ガスダスト比=0.001~0.1の範囲における緻密なパラメータサーベイ計算がおおよそ終了した。さらに、円盤の輻射の効果を入れた計算も一部実施した。これは、円盤の光学的な状態に関して両極端な場合を理解することでダストがガスと惑星との間に働く相互作用にどの程度バラツキをもって作用するのかを評価するためである。この計算はまだ進行中であり、解析はまだできていない。輻射の効果が入っていない場合の解析は平成26年度後半から進めており、定性的には以下の結果を得た。 ガス-惑星-ダストの三者間の場合、ガスが惑星にかけるトルク(ガストルクという)とダストが惑星にかけるトルク(ダストトルクという)の和によって惑星移動が決まる。最初に、ガスから惑星にかけるトルクのダスト依存性は本研究の数値計算から、ダストサイズおよびガスダスト比が増加すると、増えることがわかった。これは、内向きの惑星移動のスピードを弱める作用を意味している。ガストルクへの両パラメータの依存性はほとんど同じで、どちらが増加しても似たような増加幅を与える。この増加分は、共回転トルクが正に大きくなった(惑星を外に押す力が卓越した)ことが原因である。ダストサイズやガスダスト比の増加と共にガス摩擦項が大きくなり、渦度が変化して、結果として共回転トルクが変化したと考えられる。 一方で、ダストトルクは、ダストサイズとガスダスト比に関わらずリンドブラッドトルクが非常に弱く、共回転トルクで決まるような分布をしている。惑星にかかる正味のダストトルクは負の値である。これはガストルクが正の方に少し大きくなった分をある程度相殺してしまう効果をもたらす。惑星にかかる全トルクは、ダストがない場合と比べて大きく変わらないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後輻射の効果を入れた場合の計算をある程度進め、ない場合とどの程度ダストの影響力が異なるのかを調査する。現在までに行った光学的に薄い場合の計算を見ると、同じパラメータであっても共回転トルクの振舞いがかなり異なることが観測されている。もう少し広いダストサイズとガスダスト比のパラメータ空間で比較し、傾向を確かめ、その差の原因を議論していく。一方で、当初計画していた解析解の導出は数値計算の結果を見ると、惑星近傍でのダストとガスとの間の相互作用がかなり非線型的に関係しており、公式化は難しいと予想される。ガスダスト比やダストサイズにある程度の制限を付ければ解析解の導出も可能であるようだが、限定的な場合しか適用できない解の提示が本当に意味のあることかどうかは今後の検討課題である。その代わりに、数値計算の結果から半経験的に共回転トルクの変化をまとめる方向で検討に入っている。27年度はこれらの成果をまとめ、円盤の熱的条件を変化した下での惑星移動に対するダストの影響を調べた論文を発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は私自身の就職活動のため後半の海外出張の予定を取りやめた。そのため、本来海外出張に支出される金額が残ってしまった。また、当初の予定では本年度にコンピュータを買う予定であったが、天文台の計算機性能が思った以上に良かったため、そちらである程度代用することができた。これらの結果として、繰り越し分が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
最新のコンピュータ(当初予定していたものよりも一段階上のスペック搭載機)および海外出張の一部に充てる予定である。
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