地震を起こす断層滑りの振る舞いは,断層摩擦則の滑り速度に対する依存性が関与して決定されることが知られている.この摩擦特性は,現状では小型の実験試料を用いた室内実験からの類推で議論されているのが現状であり,天然断層が従う摩擦則が,自然地震の観測から得られた実データで検証された例はほとんど無い.従来は,地震波観測および測地観測の量的な不足により検証が困難であったが,2011年東北地方太平洋沖地震や2014年長野県北部の地震,2016年熊本地震,2016年Kaikouraなどの最近の大地震発生に伴い,相当程度の観測データの蓄積がなされた.本研究では,これらの自然地震の観測記録を用いて物理モデリングを行うことで,天然断層の摩擦則を明らかにしてきた. 2011年東北地方太平洋沖地震においては,本震の2日前に発生した前震後に観測されたゆっくり滑りの測地学的データ,および本震時に得られた地震学的データを用いて,プレート境界断層の摩擦特性を調べた.モデリングには,運動学的な応力解析,および動力学的な摩擦特性の検証を行った.これら異なる二つの滑り現象が,断層上の同一領域で発生していたことを確認した.さらに,それぞれの滑りに対応した応力変化量を弾性応答が考慮された数値計算により求めた.その結果,ゆっくり滑りでの10^-6 (m/s)程度の滑り速度では0.5MP程度の応力上昇が,地震時滑りでの1(m/s)程度の滑り速度では数10MPaの応力降下が生じていたことが見積もられた.実地震の解析は,前述のイベントに対しても行っている. 本研究では,また実データの解析に必要な数値計算手法の開発も行った.高速領域分割法という新しい時空間境界積分方程式法の数値演算手法を開発し,従来手法のコストがO(N^2M)だったところを,O(N^2)に低減させることに成功した.これにより効率的なデータ解析が可能となった.
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