研究課題/領域番号 |
25800255
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
高橋 努 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (90435842)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 減衰構造 / 第四紀火山 / フィリピン海プレート |
研究概要 |
平成25年度は西南日本西部を対象とした研究を実施し,地下のランダム速度不均質によって生じる多重前方散乱による見かけの振幅減衰(以下,散乱減衰)を考慮してS波減衰構造を推定した.本研究で推定された減衰構造は,中国・九州の第四紀火山下で強い減衰を示し,別府島原地溝帯のマントル最上部付近で最も強い減衰がイメージされた.また沈み込むフィリピン海プレートの海洋性地殻付近が周囲に比べやや減衰が強いことを明らかにした. 第四紀火山下の高減衰は東北日本と類似した特徴であり,マグマの存在や高温を反映していると考えられる.しかし火山下のマントル最上部付近のランダム速度不均質は,別府島原地溝帯は非常に小さいのに対し,東北日本の火山下では非常に大きな値を示す.ランダム不均質の解釈はまだ十分には確立していないが,これまでの研究から火山活動に伴う火山岩形成や貫入による不均質性を反映していると考えられる.よって別府島原地溝帯は,温度やマグマなどの分布は東北日本とほぼ同様であるが,火山岩形成などによる不均質性は東北日本よりも弱いと考えられる. 沈み込むフィリピン海プレートの海洋性地殻付近で推定された周囲よりもやや強い減衰は,既往の減衰研究で推定される減衰の下限に近い値であり,本研究で散乱減衰を考慮したことで明らかになった特徴である.この構造について流体を含むランダム媒質中の減衰に関する理論的研究を引用した議論を行い,深部低周波微動のトリガー現象とランダム不均質・減衰構造に基づいて,媒質の透水率に関して定量的に議論した.現時点では議論に必要なパラメータの多くが未知であるが,本研究の手法により得られる減衰構造を用いることで,地震発生と地下構造を結びつけて議論する可能性を示した.以上の研究成果は論文として国際誌に投稿中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はデータ解析,構造の解釈および論文投稿がほぼ計画どおりに進んだ.本研究課題では,減衰構造が温度や地殻流体分布など多くの要因によって変化することを詳細に考慮して議論することが重要となる.初年度の研究により,沈み込むプレートの海洋性地殻がやや強い減衰を示すことを明らかにし,深部低周波微動との関連について理論モデルを用いた議論を行ったことにより,減衰構造と地震発生を関連づけて流体分布を議論する指針が明確になり,次年度以降の研究で西南日本全体の構造を解釈する上で重要な基礎の一つが構築できたといえる.
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の計画に沿って研究を進め,平成26年度は西南日本全体の減衰構造を解明する.この解析で必要となる西南日本全体のランダム不均質構造は平成25年度に推定した.平成26年度は,その結果に基づいて散乱による振幅減衰を評価し,減衰構造の推定を実施する.地下構造の解釈は平成26年度末から平成27年度前半頃に実施し,既に同様の手法でランダム速度不均質と減衰構造が推定されている東北日本などの結果と総合して,地下構造の解釈や特徴抽出を進める. 空間分解能の向上のため,Reversible Jump MCMC法を用いた解析手法の検討を進めているが,平成25年度内では観測データに適用できる段階には至らなかった.しかしランダム速度不均質構造の推定において本手法の有効性は確認でき,次年度以降の研究で人工データを用いた手法の検証と観測データへの適用を進める.
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次年度の研究費の使用計画 |
導入を予定していた計算機の仕様が変わり,予算内で最も高性能の計算機に選定しなおしたことで残額が生じた 主に次年度の旅費として使用予定
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