海洋中の水温躍層深付近において,主に内部波が砕波することで生じる鉛直乱流混合は,表層から深層への熱(浮力)の輸送をコントロールすることを通じて,局所的な水塊特性はもちろん,全球的な海洋循環にまで影響を及ぼす重要な物理過程である。この内部波の励起源の一つの可能性として近年注目を集めているのが,大規模な海流系の順圧不安定や傾圧不安定によって励起される中規模擾乱(水平スケール100-1000 km程度の擾乱)である。 平成28年度には,北太平洋中緯度における顕著な西岸境界流である黒潮域における中規模擾乱の励起・散逸過程を明らかにすることに向けて,まず,理想化された黒潮と海底地形・陸岸地形を与えた二層準地衡流モデルを用いて,黒潮流路の変動機構に関する数値実験を行った。実験の結果,九州の南東沖で励起された小蛇行が,深層に高気圧性渦を伴いながら黒潮に沿って日本の南岸を東進し,紀伊半島の南約200 kmに位置する膠州海山と呼ばれる顕著な海底地形上を通過する際に急激に発達して大蛇行へと至る,典型的な黒潮流路の遷移過程を再現することができた。この膠州海山における小蛇行の急激な発達の物理機構を理解するために,海底地形の効果を考慮した線形安定性解析を行ったところ,海山上では,海山の周りを時計回りに伝播する下層の地形性捕捉波と,地衡流中を東向きに伝播する上層のロスビー波との結合によって,傾圧不安定モードが成長できることがわかった。数値実験で再現された膠州海山上で急激に増幅する小蛇行のスケールや空間構造は,この傾圧不安定モードのそれらと良く一致していた。 得られた成果は,国内外の学会で発表するとともに,現在,国際誌に投稿中である。
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