研究実績の概要 |
当該年度は、大気大循環モデルに組み込むための放射スキーム開発と、系外惑星におけるハビタブルゾーンの内側境界の推定を行った。 大気大循環モデルに組み込むための放射スキーム開発は、k分布法を用いて行った。想定する大気の強吸収帯、弱吸収帯を分けるように吸収バンドを設定し、バンド内の吸収断面積は積算確率関数で表現する。バンド内は複数のサブバンドで区切り、その区切り方はリファレンスとなる大気構造により計算した line-by-line 放射計算による加熱率を用いて最適化する。この最適化方により、計算したい大気に合わせて精度よく放射計算を行うためのk分布法吸収係数を計算することができる。 この方法による放射スキームを1次元放射対流平衡モデルに導入し、水蒸気を含む大気の放射対流平衡構造の推定を行った。背景大気1 bar を含む場合、地表面温度が 345K よりも低い場合には、圏界面温度が120K 付近と低温となり、350K 以上では200K 程度となる2つの大気構造が示唆された。低温の圏界面は、非灰色の効果によることが物理的に説明された。 一方、系外惑星のような地球と異なる条件で計算する場合、k分布モデルを作る上で基本となる line-by-line 放射モデルにつても課題が明らかとなった。ハビタブルゾーンの内側境界を推定しようとする場合、cold trapとなる対流圏界面の温度圧力の推定が重要であるが、地球よりも高高度に圏界面が現れる場合には、圏界面はより低圧になる。低圧条件では、線吸収の吸収線形は非常に細くなり、吸収線のピークを捉えるように十分高解像度で計算しないと加熱率を精度よく計算できない。このことは圧力広がりが支配的となる長波長帯で重要で、1Pa 付近まで計算する場合には, 波数解像度を 1e-4 cm-1 以上とすることが必要である。系外惑星の放射環境推定はこれらの知見を踏まえて行うことが重要である。
|