気象学の最も特筆すべき特徴は雲の存在であり、雲と流れの相互作用を理解することが非常に重要である。本研究は、雲の生成・消滅(水滴の相変化)が流れ場に与える影響を、精緻な数値モデルを用いた実験を通して明らかにし、次世代の気象モデルの基盤部分を構築することを目的とする。気象モデルは大気を格子状に区切って方程式を解く。現在のモデルでは、格子内の水滴の大きさなどの分布の時間発展を考えるため、相変化による流れ場への影響は、格子幅よりも大きな空間スケールにのみ与えられる。しかし水滴の相変化は格子幅よりも小さなスケールで生じ、流れ場への影響も格子よりも小さなスケールで生じる。そこで本研究では、水滴の相変化による流れ場への影響を定式化し、既存の気象モデル(Large Eddy Simulation: LES)モデルに加えた“湿潤LESモデル”を構築することを目指す。まず流体の方程式に一切の近似を施さないDirect Numerical Simulation (DNS)モデルを構築し、水滴の挙動を解く部分を組み込む(“空気+水滴”DNSモデルの構築)。この精緻なモデルによる実験を繰返し行い、湿潤LESモデルの構築に資するデータの作成及び考察を行う。昨年度は以下の成果を得ることができた。 (1)“空気+水滴”DNSモデルを構築し、並列化・高速化を施すことで、大型計算機での実験が可能とした。 (2)“空気+水滴”DNSモデルによる各種テスト計算(流体部分の検証から水滴の相変化及びそれによる流体の応答まで)を行い構築したモデルが現実的な結果を示すことを示した。 (3)水の相変化の影響が大きい現象(深い湿潤対流)に着目して、その生成メカニズムなどを調べた(Miyamoto et al. 2016a under revision; 2016b submitted)。
|