平成26年度までは,熱帯海洋における積雲対流活動起源の冷気外出流に伴う海上気象要素(海上風や海上気温,比湿など)変動及び海面からの潜熱フラックス(海面からの水の蒸発熱)変動の特性と,熱帯における大規模(水平規模数千~1万キロメートル)擾乱の代表格であるマッデン・ジュリアン振動(MJO)との関係について,主に熱帯海洋係留ブイ観測網や船舶観測によって得られた長期にわたる高時間分解能データを用いて明らかにしてきた。 平成27年度は,潜熱フラックス変動がMJOに及ぼす影響について,国際集中観測プロジェクトCINDY2011のおかげで熱帯インド洋からインドネシア海大陸にわたる地域の観測データが比較的密に存在する平成13年10月から平成14年3月までの期間を対象に調査した。特に,MJOの力学過程の解明に欠かせない鉛直積算湿潤エネルギー(CMSE)収支に着目した。既往の理論研究などから指摘されているように,潜熱フラックスはMJOに伴うCMSE偏差の振幅を増大させるように働いており,MJO型摂動の不安定化に主要な役割を果たしていることを確認することができた。一方で,潜熱フラックスはMJOの東進を阻害する方向に働くことも確認できた。 研究期間全体を通じて,熱帯海域のなかでもこれまで観測が疎らで実態の把握が遅れていたインド洋から海大陸にわたる地域における積雲対流活動に起因する海上気象要素及び潜熱フラックス変動の特性と,MJOに代表される大規模擾乱との関係性の解明を進めることができた。
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