本課題では、四次元変分法海洋データ同化システムおよびそのプロダクトである長期海洋環境再現データセットを活用し、北太平洋中高緯度における長周期海洋変動の実態を解明し、そのメカニズムや気候への影響等を理解する事で、気候形成における中高緯度海洋の重要性の理解を増進する事を目的とし研究を行った。 前年度までに、システムを活用した数値実験を通じ、月の軌道傾斜角の18.6年周期変動に伴う潮汐鉛直混合変動が、中高緯度における主要な気候モードの一つである太平洋十年規模振動(PDO)と関連した現実の海面水温変動に寄与している事を明らかにした。また、当データセットにおける数年から数十年規模海洋変動の再現性の検証を行った。 本年度は、再現性検証をさらに進め、前年度の結果と合わせて、気候変動研究におけるデータセットの有効性を示した内容が国際誌に掲載された。さらに、PDOに焦点を絞ってより詳細な解析を行い、当データセットがPDOに伴う亜表層水温変動を適切に再現しており、その変動が北太平洋中央部において冬季の表層混合層過程を通じて形成されるモード水と呼ばれる水塊と関連している事を示した。これは、PDOに関連した表層貯熱量変動の実態解明およびそのメカニズム理解につながる知見であり、国際学会でポスター発表を行った。現在、大気変動との関連を含めて、海洋亜表層変動の形成・伝播メカニズムについても解析を進めている。モード水を介した亜表層へのシグナル伝播は、大気海洋結合システムの長周期変動を制御するメカニズムの一つであるとの指摘もあり、観測データを反映したデータ同化プロダクトを元にその影響を評価する事は、気候システムの理解を進めるうえで大きな意義がある。これにより、大気海洋相互作用を通じたPDOに関わる水温変動の増幅メカニズムの理解が進めば、潮汐18.6年振動によるPDOへの影響の理解にもつながる可能性がある。
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