研究課題/領域番号 |
25800270
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
堀井 孝憲 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (20600430)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 沿岸湧昇 / スマトラ・ジャワ島 / インド洋ダイポール現象 / インドネシア津波ブイ / 潮位データ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、インド洋ダイポール現象(以下、IOD)の発生・発達に重要な役割を担う、インドネシアのスマトラ・ジャワ島の南西岸海域における冷水の沿岸湧昇を1年~数年の期間観測し、IODの発生・発達との因果関係を検証することである。そのために本研究は、当海域にすでに配備され、およそ1年おきに再設置が行われているインドネシアの津波観測ブイ(以下、津波ブイ)に新たに水温センサを取り付けて行う海洋観測を計画した。 3年度目である平成27年度は、この冷水の湧昇の観測を開始した。またこの冷水の湧昇のシグナルを間接的に調査するために、インドネシアの検潮所における水位データを解析し、この成果を学会および国際誌に発表した。以下に具体的な実績内容を示す。 1. 年度初頭の5月から、スマトラ島沖(東経101度、南緯5度付近)において、津波ブイに水温・深度センサを取り付け、第1回目の沿岸湧昇の観測を開始した。幸運にも、数年に一度の確率で発生するIODが、観測開始後の8月頃から観測海域を含めて発生し、世界で初となるIOD発生期間のスマトラ・ジャワ島沿岸海域における海水温の時系列観測がなされた。この観測データは今後インドネシア技術評価応用庁(BPPT)との協力のもと、回収する予定である。 また、別の津波ブイを利用した第2回目の観測に備えて新たに水温・深度センサ類一式を購入した。 2. 過去に発生したIODに関連するスマトラ・ジャワ島沿岸の冷水湧昇を調査するために、インドネシアの検潮所における過去約30年間にわたる水位データを解析した。スマトラ・ジャワ島南西岸海域における大気と海洋の熱交換のデータも合わせて調査することにより、IODの発生前の期間である5月から8月頃の期間に、冷水の沿岸湧昇およびそれに起因して海面水温が低下するシグナルを見出した。この成果が国際誌に受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の主な目的の一つであるインドネシアの津波ブイを利用した水温観測は、当初2年度目である平成26年度中の開始を予定していたが、これが3年度目である平成27年5月に持ち越された。これは、インドネシア技術評価応用庁(BPPT)の予算が削減された影響により、津波ブイの再配備を行う観測航海自体が1年近く遅れたためである。(ただし、前述の通り結果的には平成27年5月の観測開始以降にIODが発生し、最も理想的なタイミングで海洋観測が実行される結果となった。) また、もう一つの主要な計画であったインドネシアの潮位データを活用した冷水の沿岸湧昇のシグナルを調査する研究は、当初の計画通りにデータ解析が進み、この成果を学会誌に論文発表することができた。 さらに上記の解析研究で得られた20から50日程度のタイムスケールを持った冷水の湧昇シグナルを数値モデルに与えて、海洋の沿岸湧昇のシグナルにその周辺の大気がどのように応答するかを調査するシミュレーション研究に着手した。ただし成果は今後まとめる予定である。 以上のように、潮位データの解析研究が順調に進んだ一方で、冷水湧昇の観測データの取得、および数値モデルを利用した研究が遅れていることは事実であるため、現在までの達成度はやや遅れていると自己評価する。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定で平成27年度は最終年度であったが、上記の理由により課題期間を平成28年度までに延長した。平成28年度は年度中にインドネシアに出張し、BPPTとの協力のもと、津波ブイに取り付けて1年程度観測した水温・圧力センサを回収する。データ回収のためのBPPTによる観測航海の日程は現在調整中である。 水温観測データが平成28年度中に回収された場合、この観測によって得られたスマトラ・ジャワ島沿岸の海水温の変動を調査する。平成27年8月~11月はインド洋に正のIODが発生していたため、その前の5月から7月における冷水湧昇のシグナルの存在、その冷水湧昇を発生させた原因、およびこの冷水湧昇がインド洋東部の広範囲の海面水温の変化に寄与したか否かを他の大気と海洋のデータを合わせた解析によって調査する。 津波ブイによる水温観測データが平成28年度末までに得られなかった場合、平成27年度に着手した数値モデルを利用した研究を優先させる。この目的は、本課題で得られた知見に基づき、沿岸湧昇による冷水の広がりとその後のIOD発生との因果関係を確かめることである。具体的には、沿岸湧昇に関連する海面水温のシグナルを用意して大気モデルに与え、その周辺に大気の高気圧のシグナルおよび沿岸湧昇をさらに強化し得る南東風のシグナルが発生するかを確認する。 またこれまでの研究成果をまとめてJAMSTECのウェブサイトにおいて発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
インドネシアBPPTの航海の日程調整のため、第1回目の水温観測の完了とデータ回収、および2回目の水温観測開始の予定が平成28年度に延長された。そのため、インドネシアへの出張日程も延長し、旅費に未使用額が生じた。 また、当該年度(平成27年度)に受理された論文の出版費用の請求および支払いが当年度中に完了しなかったことから、予定していた論文出版費用(費目:その他)にも未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度終了時に生じた未使用額は、平成28年度の旅費および論文出版費用として計上する。旅費は、本課題で実施した海洋観測データを回収するためのインドネシアへの出張費として使用する。論文出版費用は、平成27年度に受理された論文(インドネシアの潮位データから沿岸湧昇のシグナルを調査した研究成果)の出版のため学会誌に支払う費用として使用する。
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