研究課題
若手研究(B)
平成25年度は、磁気圏-地上で地磁気脈動が同時に特定できるイベントを探す事を当初の目的としていた。この目的達成のため、日本と同じ経度上を飛翔する静止軌道衛星「きく8号」及び同経度上に位置するロシア・カムチャッカ半島・パラツンカの地上磁場データを用い、磁気圏-地上のデータから地磁気脈動の特定を進めた。脈動の特定には、「きく8号」の磁場観測データに対し、磁場データのパワースペクトルデンシティー(Power spectrum density)から客観的に特定する方法(Takahashi et al.[2007]による)を用い、鋭いピークを持つ(周波数が一定の)脈動のみを抽出した。次に、磁気圏で特定された脈動のモード分けを行うため、磁気圏で観測される脈動をトロイダルモード(磁力線の方位角方向の振動である横波)とポロイダルモード(磁力線の圧縮振動である縦波)に区別した。トロイダルモードでは磁力線に沿って伝わるアルフヴェン波が励起されていると考えられ、ポロイダルモードでは磁力線を横切る磁気圧縮波が励起されていると考える事ができるため、これらのモードではそれぞれ分離して議論を進める必要がある。「きく8号」のデータ解析から、磁気圏でのPc4(周期:45-150秒)脈動のそれぞれのモードの発生頻度の地方時依存性、強度の依存性等、磁気圏内でのPc4脈動の特性は確認された。また、磁気圏-地上で同時に観測されるイベントも特定はされたが、磁気圏と地上の比較から顕著な特性はまだ発見されていない。また、別の解析では、地磁気脈動の一種であるPi2型地磁気脈動が地上磁場のみならず、地電流(地電位)にも現れる事が確認できたので、地上付近での脈動の特性理解のため、この解析も進めている。
2: おおむね順調に進展している
上述のように、平成25年度は「きく8号」のデータから磁気圏内での脈動現象の特定、さらに磁気圏内で脈動が発生した時の地上磁場変動での脈動の特定を実施し、磁気圏-地上で同時に発生する脈動を選定した。この選定では、当初考えていたよりも磁気圏-地上で相関の良いイベントは多くは無かった。磁気圏-地上で同時に特定された脈動の特性はイベント数が少なく、顕著な特性を見出すことはできなかった。以上より、解析期間を増やす事及び、地上の観測点の変更等を検討する必要がある事が明らかになった。平成25年度の解析では、イベント数をさらに増やす事が課題として残ったが、既に磁気圏-地上での同時発生が特定されているイベントに関しては、平成26年度に電離圏電場変動データも含めて解析し、磁気圏-電離圏-地上で同時観測される脈動の調査を進める。また、当初計画していた内容とは異なるが、Pc4とほぼ同じ周期帯のPi2型地磁気脈動が地電流(地電位)においても地上磁場と同期して現れる事が確認された。この事は地上付近での脈動特性理解、さらには脈動の反射点の理解など、新たな物理を解明できる可能性があるため、地電流からのPi2型地磁気脈動調査も並行して進めて行く。具体的には、地上磁場と地電流で同時に特定されたPi2イベントに対して、周波数解析を実施し、両者の変動がどのような関係にあるのかを調査する。周波数解析からは、Pi2型地磁気脈動をcavity modeで説明する際の反射点の場所等、解明が期待される。さらに地電流で捉えられたPi2型地磁気脈動の偏波解析を行い、地上磁場での偏波解析と比較し、両者の成因の調査も進める。
平成26年度は磁気圏-地上で同時に特定される脈動を増やすため、解析期間の拡大をし、さらに地上磁場観測点の追加、変更をして、磁気圏-地上で同時発生する脈動イベントをより多く捉える。さらに、既に見つかっている磁気圏-地上で同時に特定されたイベントに対し、電離圏電場変動データ(FM-CWレーダーによって取得されたもの)を併せて解析し、磁気圏-電離圏-地上での脈動伝搬解明を目指す。FM-CWレーダーのデータはロシア・カムチャッカ半島・パラツンカに設置されている物を用い、「きく8号」と同経度上で脈動を捉える。FM-CWレーダーによる電離圏電場観測データを加えて解析することにより、地上磁場に現れる脈動がどのように励起されているか特定する事が出来る可能性がある。さらに電離圏-地上での脈動の位相差からは波動の伝搬方向等も特定できる事が期待される。以上の解析より、磁気圏から伝搬する脈動が、どのように電離圏を介して地上まで達するのかを明らかにできる。トロイダル、ポロイダル、両モード毎のチャンピオンイベントに対して、脈動の磁気圏-電離圏-地上の伝搬解明をする。また、平成25年度の解析で明らかになった、地電流データに見られるPi2型地磁気脈動の調査も進め、地上付近での脈動現象の特性の調査を別の切り口として進める。地電流データを用いた解析も、Pc4脈動の解析と併せる事により、磁気圏-電離圏-地上の地上部分のデータが磁場と電場(電流)の2種類になり、電磁波動(脈動)の理解には大いに役立つと思われる。
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Earth, Planets and Space
巻: 66 ページ: 1-8
10.1186/1880-5981-66-20
鹿児島工業高等専門学校研究報告
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