本年度は,微生物堆積物の解析に用いられる微生物学的手法の確立に注力した.まず微生物の遺伝子解析については,九州大学比較社会文化研究院において一般的技術を習得した後,基礎実験を繰り返すことで微生物堆積物に適したプロトコルを開発しすることに成功した.また共焦点レーザー走査顕微鏡に関しても,微生物堆積物の観察に適するようカスタマイズを行った.特に堆積物表面の細胞外高分子を標識し,三次元で表現することが可能になった.これらの技術確立により,次年度以降の研究を機動的に実施できる体制が整った. 国内の微生物堆積物の調査については,長湯温泉(大分県)と入之波温泉(奈良県)に加え,新たに本研究課題に適していると判断された木部谷温泉(島根県)において実施した.また当初の調査予定地である下位田トゥファ(岡山県)よりも,上野トゥファ(岡山県)の方が本研究課題に適していることが明らかとなったため,そちらで調査を実施した.野外においては微小電極測定を行い,室内実験のための堆積物・水試料の採集も行った.堆積物試料については薄片観察,細胞外高分子を染色した三次元観察,FISH法などによる微生物の分布観察などを行い,また遺伝子解析についても現在進行中である. 最終年度の研究対象である,過去の微生物岩についても予備的検討を行った.当初,国外産の微生物岩のみ使用予定であったが,国内の研究対象候補として手取層群に見られる炭酸塩ノジュールに着目し,本研究課題に対する適性を評価した.また,海外の研究協力者が3月に来日されたのに合わせ,利用可能な微生物岩試料についても打ち合わせを行った.
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