昨年度までに検討を行った微生物堆積物形成場のうち,上野トゥファにおいてストロマトライト・スロンボライト両方が形成されていたことから,微生物岩組織の規制要因について詳細な検討を行った.水化学分析および微小電極による微生物代謝の影響評価を行ったところ,両堆積場でそれらの要因に大きな違いは見られなかった.一方,遺伝子解析および共焦点レーザー走査顕微鏡の観察結果は大きく異なっており,ストロマトライトではPhoromidium sp.の酸性官能基を含む細胞外高分子が結晶核形成場となっており,スロンボライトではLeptolyngbya sp.の酸性官能基を含まない細胞外高分子が結晶核形成を阻害していた.これらの結果は,シアノバクテリア細胞外高分子の化学組成が微生物岩組織の形成に重要な役割を果たしていることを示しており,顕生代初期に起きた微生物岩変遷を説明できる可能性がある.現在,この内容について論文を準備中である. 団塊試料については,Thaumarchaeota Marine Group Iがマンガン酸化物形成に関与しており,組織を考慮するとストロマトライトである可能性が示された.この内容について論文が受理された. 長湯温泉については,シアノバクテリア細胞外高分子に加えて流速条件が組織形成に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.三瓶温泉については,マンガン酸化物が方解石と互層をなしており,その形成に光合成微生物やマンガン酸化菌が関与している可能性が示された.ブラジル・リン酸塩ストロマトライトに関しては,LA-ICP-MSによるU-Pb年代測定を実施し,その形成年代がマリノアン氷河期直後であることを明らかにした.また,ブラジル・マットグロッソ・ド・スル州のトゥファ堆積場,および北海道二股温泉を訪れる機会を利用し,特に後者が続成作用の検討に適した場所であることを明らかにした.
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