大水深堆積盆地の堆積岩の熱物性は海底下深部の熱移動、有機物生成、微生物活性を評価する上で重要な物性である。また、水分活性は微生物活性の評価指標として、食品科学分野で測定が行われてきた。しかし、両物性も海底下深部の堆積物については測定が行われていない。そこで統合国際深海掘削計画第337次航海により採取された下北半島沖三陸沖堆積盆地深部の熱物性と水分活性の測定を行い、物性の深度分布、および物性の支配要因を考察した。また得られた熱物性を元に三陸沖堆積盆地深部の温度分布の評価を行った。熱物性はホットディスク法により算出した。間隙率はヘリウムガス置換法により測定し、水分活性は市販の水分活性測定器を用いて行った。 熱伝導率と熱拡散率は深部ほど大きくなり、熱容量は深部ほど小さくなる傾向が認められた。また、深度2000m近傍で熱物性は大きくばらつき、熱伝導率は間隙率と強い相関が認められた。堆積岩の熱物性が水-固体二相混合モデルに従うと仮定した場合、幾何平均で説明できた。同一深度における熱物性のばらつきは、鉱物構成比の違いを反映していることがわかった。実験値から推定した熱伝導率と間隙率の深度分布を用いて、同掘削地点8km深度までの温度分布を推定した。その結果、深部ほど地温勾配は小さくなり、深度2000m付近でスポット的に温度が増加する傾向が認められた。海底表層の熱流量は29~30mWm-2を示し、調査地域近傍の熱流量値と同じ値を示した。熱伝導率の深度変化を考慮しないと地下深部の温度を過大評価する恐れがあることがわかった。 水分活性はいずれの試料も0.9以上の高い値を示した。水分活性と間隙率および微生物数との強い相関は認められなかった。一方水分活性は、間隙水の塩分濃度負の相関が認められ、試料の間隙水の化学組成から推定した水分活性と類似した値を示したことから、堆積物の水分活性は水の化学組成に支配されることがわかった。
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