研究概要 |
ベレムナイト(絶滅頭足類)は,長い時間軸上の環境変動に対応した遊泳生物の進化を示すモデル生物として現在世界的に注目されている.その基礎をなすベレムナイト進化史に関する研究は150 年間にわたり活発に行われてきた.しかし,従来の進化史モデルは「欧州のデータ中心」という地域的なバイアスかが強くかかっていることかがわかった.本研究は,研究の空白地帯となっていた東アジアにおける初期のベレムナイト化石記録を精査することで,従来の欧州モデルに全面的な改訂を迫るものである.この目的を 達成する具体的な課題として,1)通説を 4500 万年も遡る三畳紀起源説の検証,2)原始的グループの認識と新分類群の提唱,3)高次分類群の起源の解明,4)進化史初期段階での多様性・古生物地理の変遷とその背景の追究を設定している. 宮城県太平洋沿岸域の志津川層群において野外調査を行いSinemurian階より多数のベレムナイトを得た.分類学的検討の結果,新科新属新種のNipponoteuthis katana,およびEocylindroteuthisの新種であるE. yokoyamaiを報告した(Iba et al., in press PLOS ONE).これらは,亜目Belemnitinaに属するが,同時代の欧州から知られるグループとは鞘後方によく発達した溝を持つ点で異なる.これらの特徴を持つBelemnitinaは,ジュラ紀中期より出現したと考えられてきたが,本研究によりジュラ紀最初期に既に存在していたことが明らかとなった.この他,中国成都理工大学において三畳系より産出したSinobelemnitidsの標本調査を行い,新亜目設立のための殻内部構造を観察し,分類学的検討を行った.Sinobelemnitidsとの比較のために欧州の各研究機関(ベルリン自由大学やカレル大学)の収蔵標本やフィリピン産標本の検討も行った.
|
今後の研究の推進方策 |
1.野外および標本調査:宮城県の志津川層群の層序・採集調査の継続に加えて四川省・雲南の三畳系を対象とした対象とした野外および標本調査を行う.南京地質古生物研究所に収蔵されているチベット産標本の分類学的検討を終え,生物地理学的観点からの解析を行う. Pachybelemnopseina亜目の最古記録調査のために欧州の各地域・研究機関(ルール大学,チューリッヒ大学等)において標本調査を行う. 2.室内研究:平成 25 年度と同じ方法で殻の外部形態および内部形態・構造を観察し,分類を行う.Belemnitina 亜目,Pachybelemnopseina 亜目に分類されるタクサについては,ヨーロッパ産の標本との比較を行い,種レベルでの分類を行う. 研究結果は随時論文として報告する.
|