研究実績の概要 |
今年度は岩手県船越湾の海底において生痕相についての野外調査をおこなった.この湾では,2011年3月の大津波により,海底から大型の底生生物が消滅したことが報告されている.そして,津波から1年半後の2012年以降は,底生生物が再加入していることが確認されている.再加入した底生生物の中には,重要な生物撹拌者であるオカメブンブクEchinocardium cordatumも含まれている(Seike et al., 2013).したがって,今現在のこの湾の海底堆積物を調べることで,海底面からどれくらいの深さまで生物攪拌が影響しているかを詳細に明らかにすることができる. 海底から堆積物コア(最大長さ70 cm)を採取し,その試料をX線CT撮影および断面の観察をすることで,船越湾の生痕相の状態を調べた.その結果,船越湾では海底面から最大で深さ20 cmまでの範囲にオカメブンブクの活動の痕跡が明瞭に認められた.それより深い箇所ではオカメブンブクの生痕は観察されなかった.このことは,オカメブンブクが海底下20 cmの深さまで堆積物を撹拌していることを意味している.生物攪拌が海底面からどれくらいの深さまで影響しているかを,フィールドにおいて調べることは通常は困難であるが,本研究のようにイベント直後であれば正確にかつ定量的に解明できることが明らかとなった.三陸沿岸の他の海域においても本研究と同様の手法を用いることで,生物撹拌が影響する深度についての情報がさらに得られることが期待できる.
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