中生代中期(ジュラ紀後期~白亜紀前期)の異常な地球表層での炭素循環は,主にテチス海から提示されてきたが,地中海であったテチス海のデータは地域的シグナルにすぎない可能性があった.そこで本研究では,その時期に古太平洋地域で堆積した石灰岩(日本の鳥巣式石灰岩とマレーシアのバウ石灰岩)に注目した. 鳥巣式石灰岩では代表的な2セクションから炭素同位体比を測定し,体系的な炭素同位体比(δ13C値)の層序プロファイルを示した.先行研究で判明しているストロンチウム年代と生層序の年代を元に同時期のテチス海のδ13Cプロファイルと対比した.その結果,地域間対比が可能な3つの同位体異常が確認された.また両地域のδ13Cプロファイルを比較したところ,Kimmeridgian後期の鳥巣式石灰岩のδ13C値は同時期のテチス海のδ13C値に比べて1‰ほど低いが,Tithonian後期にはこの地域差は収束していくことが判明した.この同位体比の均質化は海洋循環の変動に関係しているのかもしれない. また中生代中期には,古海洋環境に適応した,「厚歯二枚貝」という特異な二枚貝が出現した.本研究では同位体層序学的研究と平行して,鳥巣式石灰岩とバウ石灰岩から産出した厚歯二枚貝(Epidiceras)の古生物学的な研究も行った.その結果, Epidicerasは波浪の及ばない静穏な環境に生息していたことが判明した.鳥巣式石灰岩からは波浪の強い環境にも厚歯二枚貝(Valletia auris)が生息していたことが知られており,本研究結果は厚歯二枚貝の生態はジュラ紀後期の時点ですでに多様化しつつあったことを示している. 現在はイオンクロマトグラフィー装置を使用して,石灰岩中に含まれる金属イオンの定量を行い,石灰岩の堆積環境・生成条件についてより詳細な議論に取り組んでいる.
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